ふしぎ体験レストラン 『ごまんたる』
第三話「太陽系家族。惑星を積み上げて遊ぼう」
しばらく、仕事が忙しくて「ごまんたる」へは行けませんでした。ようやく時間を作って三度目に店を訪れたのは、冬なのに気温が暖かい雨がどば降りの正午過ぎでした。行きたいと思ったら来れるようなので、適当に歩いていたらたどり着きました。途中で隣の家のシャム猫のムシャムを見かけました。お店に辿り着き、ガラガラとドアを開けました。
「ひとりです」
「ヘイ、一匹だね。カウンターどうぞ! おぅ、久しぶり!」熊の大将が声をかけてくれました。私はかるく会釈して店内に入りました。初めて見る、お猿のお姉さんが私を席まで案内してくれました。店内のBGMは、「アラベスク」でした。
「(ドビュッシーが好きなんだなぁ)」と思いました。今日も店はそこそこ繁盛していました。隣の席では、相変わらず座席に仰向けにもたれかかって、イビキをかいている毛むくじゃらのお客さんがいました。
「ぐぴっぴ~、すぴっぴー、ガガんがガんがが・・・、も~ぐえ゛ん・・・」いびきと歯ぎしりと寝言が成長していました。
「お隣さんは、今日もにぎやかですね~」
「このヒト、120日か130日いるんですよ。有名な芸人さんらしいです」
「ヒトなのですか?」
「わかりません。では、メニウが決まりましたら、お呼びください」お姉さんは、追加の質問をこばみました。
『ふしぎ体験レストラン ごまんたる』
メニウ
行きたい場所は、たんとある
食べたいものも、ごまんとある
ならば同時に楽しもう!
「!」私は、メニウを見て驚きました。普通の店になってしまっています! これだから、文句だけを言う人(クレーマー)は嫌いです。遊べる要素、楽しめる要素、突っ込める要素を一つずつ潰してしまいます。ちょっと悲しくなってしまいました。500ページほどあったメニウは、620ページまで増えていました。
「(これは、追いつけないかもしれない・・・)」私は、冷汗をかきながら、ページをめくりました。
≪銀河系・ステキ体験コース≫
≪愉快系・面白さは世界共通コース≫
≪不思議系・世の中楽しいことだらけコース≫
≪だれだっ系・ネットで調べてみようコース≫
≪・・・≫
「やっぱり・・・。色々なコースが増えている。なかなか追いつけないなぁ・・・」それでも私は、銀河系にしました。
「あれ? こんな組み合わせだったっけ?」
≪銀河系・ステキ体験コース 3光年≫
◎ドリンク:
・プレアデスムージー
◎メイン・メニュー:
・コペルニクステーキ
・ガリレオムライス
◎サラダ:
・JAXA(ジャクサ)ラダ
◎デザート:
・ギャラクシーフードピッツァ
※メテおにぎりは、おかわり自由です!
少し気になったので、お姉さんにたずねてみました。
「3光年って、何ですか? 1光年が食べたいです」
「ありません。どのメニウも一度きりしか食べれないのです。大将(てんちょう)から、『レシピを忘れてしまったと伝えなさい』と言われています」と、言い終わると、ととと、と行ってしまいました。お腹が空いたので、3光年を食べることにしました。
「まんぞく!」それでもお腹は、満たされました。ね、ね、ぬ、ぬる、ぬれ、ねよ。Good night!
例によって、ワニゾウさんが現れました。
「お久しぶりです」
「お久しぶりです。お元気そうで、何よりです」
「今日もお世話になります」
「かしこまりました」というや否や、
「うちうの本質とは、時間が進んでいるか、戻っているかのどちらかであります」本日の遊びの説明が始まりました。私は、追いつけずにいたので、聞き返しました。
「そうなのですか?」
「まぁ、大将の理論ですから・・・」
「さようでございますか」私は、一応納得することにしました。続きが気になったからです。
「ねこた様には、広がるうちうと、閉じるうちうの両方を体験して頂いたので、本日は太陽系の遊びです」
「興味深いですな」
「ごまんたるの三大うちう遊びの一つです」気が付くと、私とワニゾウさんは太陽系銀河を抱えられるほど巨大化しておりました。太陽系銀河が目の前で、グルグル回っております。
「直径は10万光年ほどあります。おそらく中心にはブラックホールがあると思われます。『年』と言う単位がついておりますが、実は距離の単位なのです」
「ご丁寧にありがとうございます。混乱する方も多いでしょう」
「分かりやすいように、太陽系を色付けしておきました。ここです、このあたりにあります」
「私たちの太陽系が、こんな端っこで必死に回っております。いじらしいですな~」目の前で、キラキラと輝く星々が回転しておりました。ピロピロ、きらきら、光りながら音を出しているように感じられました。一番オルゴールの音が似合っていると思いました。
「ぴろピロ、ぽろん、きん、きらら・・・」ウットリしながら、ずっと見入ってしまいました。ワニゾウさんは、私の感動が満足するのを待っていました。
「それでは次に、銀河系を拡大してみましょう」我々は、急に縮小化しました。太陽系を抱えられるほどの大きさになっていました。
「太陽系のお父さんは、やはり太陽さんですね」
「太陽をお母さんだと思う方もいらっしゃるでしょう。それは、感じ方の違いなので、否定は出来ません」
「むわははは! わしに任せろ!」突然、太陽さんが喋りはじめました。でも、表情は確認できませんでした。元気な声だけが聞こえてきます。
「! ワニゾウさん、太陽さんが喋りはじめました!」うろたえる私を、ワニゾウさんは落ち着かせました。
「擬人化(ぎじんか)させてみました。お母さんだと感じた人には、女性の話し方に聞こえます。気になることは、何でも質問なさってみてください」私は質問してみました。
【擬人化(ぎじんか)】
小説や俳句などで使われる技法。擬人法ともいう。人間ではないものを人間のように扱う。動物とも物質ともすべて等しくお付き合いするので、これが出来る人は今いる友達の数を一億倍に出来る。
「太陽さん、熱くないですか?」
「むわははは! わしはエネルギーに満ちておる! 熱くなどないわい! この熱気で皆を温めるのだ! むわははは!」
「いつも、皆さんのために頑張って頂いてありがとうございます」
「何の、なんの。気にすることはない。皆を温めるのは、わしの役目じゃ! 命ある限り温め続けるので、大いに遊びなさい! 学びなさい! 育ちなさい! 受け継ぎなさい! わしに与えられた役割を、わしなりに立派に勤めさせてもらおうかの~、むわはははははは!」
「けち臭い性格ではないので、安心しました」
「人それぞれ、考え方も、好みも違う。それらをいちいち否定してはいかん。自分は自分の考えを全うするだけだ! むわははは!」
「太陽さんには、悩みはありませんか?」
「悩みがあれば、自信が無くなる。自信がなければ、伸び悩む。伸び悩めば、妬みに変わる。悩まずに、前を向きなさい。今の全力を尽くしなさい。ただ、それだけでいい! そのうち変わるよ。 むわははは!」
「ありがとうございます。悩みが吹き飛びました」
「まぁしいて言うなら、他の惑星たちが心配よのぅ」
「水星さんや、金星さんたちのことですか? まるで本物のご家族みたいですね」
「まぁ、家族ではないのだが、家族のようなものだ。何十億年も一緒にいるのだから、情もうつるよ」
「太陽さんが優しい方で安心しました。心配してくれる人がいるだけでも幸せなことだと思います」
「そうだのぅ。それが愛の一つの形なのかもしれんの。心配してあげられる相手がいるだけでも幸せじゃ、その人は孤独ではない」
「心配されて、心配してあげて。お互いに、いい関係ですね」
「そこから優しさが生まれ、どんどん大きくなるのじゃ」
「ありがたいお話をありがとうございました」
「迷ったら、また来なさい」私は、何かスッキリとしました。得難い何かを人ではないものに教えてもらいました。ワニゾウさんは、私と太陽さんとのやり取りを聞いて、目じりが垂れ下がり、口元がほころび、見るからにほっこりしていました。
「それでは次に、参りましょう」私たちは、お隣さんの水星さんに向かいました。
「ねこたさん、惑星さんたちは、とても個性的です」
「さようでございますか」
「男性か、女性か、決めかねると思いますが、それももう古い考えです」
「そうかもしれませんね」
「天体なのですから。話し方だけでは、分からないものです。お気を付けください」
「はい、分かりました」すぐに隣の水星につきました。顔の表情は見えませんが、私には活発(アクティブ)でお洒落(スタイリッシュ)な女性に感じられました。
「あら~、ワニさん、お久しぶり~。そちらは、どなた~?」
「ご無沙汰しております。こちらは、お客様のねこた様です」
「利発そうな方ですね~。私は、ヘルメスと呼ばれております。ルメとでも呼んでください」
「ルメさん、初めまして。私は、猫田(ねこた)銀杏(いちょう)と申します。雑誌に色々な記事を書く仕事をしています」
「それでは、キャプテンさんとお呼びしましょう。キャプテンさんは、どちらからいらしました~?」
「じぱんぐという国の、北の方の端っこからやって来ました」
「そこは、商売が活発な土地かしら?」
「そこそこ活発でございます」
「あちこち飛び回っていそうですね~。儲け話がありましたら、ひとつ教えて下さらない? お手伝いしますわよ~」
「その時には、お願いします」
「待ってるわよ~」
お隣の金星さんは、ひときわ輝いておりました。
「キラキラ」どころではありません。
「きんら、きらきら、これでもか!」と輝いておりました。金星さんは、私には自信に満ち溢れた、博愛の心にまみれたお嬢様に感じられました。見る人によっては、映画俳優(ムービースター)に見えた人がいるかも知れません。
「金星さん、こんにちは。ワニゾウです」
「あら、ワニさん、こんにちは~。あたしが一番なの」
「相変わらず、お美しぅございます」
「あら、ありがと。催促したみたいで悪いわねぇ」
「いえ、いえ、とんでもございません。今日はお客様をお連れしました。こちらは常連の、ねこた様です」
「Oh! Mr.Cat! PRETTY!」
「! ありがとうございます」私は赤面せずにはいられませんでした。惑星を美しいと感じたのは初めてでした。内面から溢れ出る美しさが、もはやこぼれだしていました。
「アタシは、一番なの。御免なさい。自慢してしまって」
「いえいえ、もはやあなた様が一番であることは疑いようがありません」
「一番ゆえに、責任も大きいの。芸術と愛に関する悩みなら任せてちょ~だい」お道化て見える言葉遣いも可愛らしかった。
「何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「そうね~。金星(アフロディーテ)と呼ばれているけど、長いから金ちゃんでいいわよ~」
「気さくな方で、安心しました」
「安心するところから、愛は始まるの。覚えておいて。芸術も安心や愛から始まると、作品の完成が見違えるわよ」ニッコリと笑ったに違いありませんでした。しかし、笑顔は確かめられませんでした。
「勉強になります」
「それでは、次に参りましょう」
「またね~」確認できませんでしたが、間違いなく手を振っていたに違いありませんでした。自信に満ち溢れているからこその心の余裕だと思いました。他人を愛(いと)おしむ余裕が出来るのでしょう。羨ましい限りです。
「我がちきうは個性的な惑星さんに囲まれているのですね」私は感心してしまいました。
「身近なものというのは、なかなか気づかないものです」お隣は、火星さんです。
「こんにちは。火星さん。ご無沙汰しております」
「おっと、これはこれは、ワニゾウさんではありませんか! いや~懐かしい!」火星さんは、歴戦の武士の雰囲気でした。野太い声はよく聞き取れませんでしたが、優しさと暖かさを感じました。体中が刀の切り傷だらけだと感じました。
「前回お伺いしたのは、確か2年ほど前です」
「あの、風変わりな河童どのは、今日は一緒ではござらんか?」
「今日は、常連のねこた様をお連れしました。こちらです」
「初めまして、ねこたと申します」
「これは、これは初めまして、猫田殿。どちらから参られたかな?」
「古くは、じぱんぐと呼ばれた大和の国から参りました」
「はて? やまとの国の戦乱は治まりましたかえ?」
「よーろっぱほど、ひどくはござらん。たいがい治まりました」
「いくさはいかん。平和ならば何よりじゃ。枕を高くして眠られよ」
「ありがたき、おことばです。ごちそうさまです」
「わしは、火星(アレス)と呼ばれておる。戦の神とされておるらしいが、立派な平和主義者じゃ。力で相手の物を奪うことはまかりならん」
「仰せの通りでございます」
「戦いが起こったら、知らされよ。叩いて殴ってどついてでも、止めさせる。平和が一番じゃ」
「ありがたきお言葉でございます」かしこまりながらお辞儀をしました。
「全人類の代表がねこた様で助かりました」と、ワニゾウさんに言われて真っ赤になりました。
「そんなつもりはござらん。アレス殿の言葉にあわせただけで御座います」
「わっはっは~! 面白いやつだの~」恥ずかしくて、顔を上げることが出来ませんでした。
「それでは、次に参りましょう」促されて、その場を離れましたが、まだ赤面したままでした。
お隣は、木星さんでした。ひときわ大きな惑星でした。太陽さんの1/10ほどの大きさですが、威厳に満ち溢れていました。巨大な「大赤斑」でギョロリと睨まれると、心の中を全て見透かされているようでした。私なんかが口をきいていいのかどうか、ためらいました。
「わらわは、木星(ゼウス)、天の神である。ワニゾウや。また、惑星の衝突かえ? わらわに、全て任せてみよ」
「ありがとうございます。いつも助けて頂いて、感謝の言葉しかありません。今日は、お店の常連のねこた様をお連れしました。記事を書いて、みんなに知らせる仕事をしておられます」
「大義だの」
「知らないところで随分助けて頂いているようで、ありがとうございます」私も、頭をさげました。
「うむ。惑星探査も構わぬが、ゴミが増えるのは頂けぬ。ねこたとやら、皆に知らしめて欲しい。うちうを汚すでない、と」
「かしこまりました。きっと伝えます」
「くっくっく・・・」となりで、ワニゾウさんが笑いをこらえていました。
「(私は、ちきうの代表ではないのです)」
「(くっくっく、分かっています。くっくっく・・・)」そして恭しく頭を下げて、お隣を訪問しました。
お隣は、土星(クロノス)さんでした。美味しいものを沢山食べているふくよかな体をした印象でした。
「おや! ワニゾウじゃねぇか! 今年は豊作か?」
「こんにちは、土星さん。今年は大豊作です!」
「んでは、いかった。腹が減るのは辛いことだ。飢饉(ききん)にそなえとけよ。んで? そいつは誰だ?」
「もうし遅れました。私は、ねこたと呼ばれています。世の中の出来事を皆さんに伝える仕事をしています」
「立派な仕事じゃねぇか! んでは、伝えろ。きちんとききんに気をつけろ!」
「かしこまりました。ききんとききんにきんをつけんろ」
「そうではねぇ、きちんと飢饉に気をつけろ!」
「ききんにきにきにきんきをつける」
「わっはっは~、だめだべ」
「きちんとききんき、きんをつけます」
「なかなか、軽やかな性格でいらっしゃいましたね」私はワニゾウさんにたずねました。
「おそらく密度が軽いからかもしれません」
「みつどで、性格が変わるのですか?」
「性格が軽く見えるのは、ねこた様の想像力(イメージ)なのです。相手が、必ず自己主張をしているとは限りません。あくまでも話を聞く受け取りて側の問題なのです」
「なるほど~」深く関心をしました。そして、何を話したか忘れてしまい、次を訪れました。
お隣は、海王星さんでした。激しい嵐を全身で受け止める、芯のしっかりした印象でした。
「ワシは、海王星(ポセイドン)である。隣は土だ。ワシは海だ。二人合わせてめでたいことだ!」
「ご無沙汰しております。今日は、常連のねこた様をお連れしました」
「うむ。ちきうは、異常気象で苦しんでおるようだの。エルニーニョ・そりゃねーよ」
「?」
「異常気象が人間のものか、それ以外のものか・・・。台風・大変。サイクロン・くさいろん」悩んでいる風貌で繰り出される、駄洒落の数は半端ないものでした。駄洒落でも言わなければ、気がまぎれないのかも知れませんでした。次々に繰り出される駄洒落を二十ほど聞いてから、隣を訪ねました。
お隣は、冥王星さんでした。話さなければ、随分ハンサムでイケメンな印象でした。
「つい、この間まで、仲間だったんだぜ~。信じられないよ!」冥王星さんの愚痴から始まりました。
「俺さまは、冥王星(ハーデス)。死者の星さ。おいらが仲間じゃないんだから、死んだら行くところがないぜ~。さまようぜ~。大変だぜ~。困ったろ~? 早く仲間に教えて上げな。おいらを仲間に戻しなさい」
「は、い」と返事をする言葉を遮って、
「死はつらいぜ~。死んだことがないけどね~。つらいに決まってるぜ~。困るだろ~? 早く仲間に教えてあげな~。明日からまた、仲間だぜ~」
「は、い」と返事をする言葉を五回ほど遮られました。
「・・・」
「・・・」帰りは、ワニゾウさんと無言が続きました。
「何と言って、良いのでしょう」私は、考えがまとまらないまま口を開きました。
「はい、何でしょう?」
「今、話してきた星々さんたちは、私の勝手な想像力(イメージ)なのですか?」
「はい、そのとおりで御座います。普段から、ねこた様が考えているイメージが具現化したものです。『ごまんたる』はきっかけにすぎません」
「見た人によって、考えによって、惑星さんたちの受け答えも変わりますか?」
「そうなのです。ねこた様は、穏やかな対応でした。なかには、ケンカしてしまう方もおられます。イメージとケンカするのです。見ていて滑稽(おもしろい)です」そして私たちは、再び太陽系を抱えられるほどの大きさになりました。
「(もし自分が盲目だったら、彼らと仲良くなれるだろうか?)」ねこたは、そんなことを考えていました。目に見えないのだから、言葉で感じるしかありません。
「(きっと、仲良くなれるさ!)」そんな自信しかありませんでした。
「それでは、帰り際に『太陽系・実験ショー』をしましょう」とワニゾウさんにいわれました。
木星がバスケットボールの大きさになりました。もはやしゃべる惑星さんたちではありませんでした。だから、私はワニゾウさんにたずねました。
「惑星さんたちが、しゃべりませんね?」
「積み上げ遊びをすると、このみを主張したりわがままを言いだすので、擬人化を止めています」
「なるほど」私は納得しました。そしてもう一つ疑問に思いました。
「急に小さくなりすぎたので、太陽の位置もちきうの位置も分かりません」
「太陽は、木星の10倍ほどの大きさなのですが、ここからだと1,300km先にあります。見えませんよね? 太陽に近づいてみましょう」我々は太陽に近づいて、ちきうがバスケットボールほどの大きさに感じられるくらいに縮小化しました。
「太陽って、大きいですな~」
「ちきうの100倍以上あります。何かやってみたいことはありますか?」
「ちきうは、太陽のまわりを地軸を傾けながらクルクル回っていますが、地軸の傾き直していいですか?」
「構いませんよ。これはちきうであり、地球ではありません。あなたの行為は、宇宙には何の影響も与えません。勉強だと思って色々試してみましょう」私は、傾いている地軸を公転面に垂直にしてみました。しばらくは何の変化も見られませんでしたが、北極と南極が露骨に凍りはじめました。赤道付近は、海水が沸騰しているように見えました。
「気のせいですか?」
「気のせいですよ。はっはっは」ワニゾウさんは、ただ笑っていました。
ちきうの軌道を太陽に近づけると、ちきう上の海水が蒸発してしまいました。
ちきうの軌道を太陽から遠ざけると、海水は凍り付いてしまいました。
太陽の光をさえぎってみても、ちきうは難儀そうでした。
「どうやっても、ちきうは悲鳴をあげます」
「太陽とちきうのバランスはデリケートですからな~。本当の奇跡です」神様の好奇心という奴は、残酷なのかも知れません。
「ちなみにゆきおさんは、ここで何をしましたか?」
「あの方は、太陽の上に大きい天体から順番に並べていました。天体はツルツルすべるので、重ねられるハズがありません。120回失敗したところで、見かねた大将が天体どうしの重力を少し働かせると天体どうしを重ねられるようになりました。全て重ね終わったのは、40,320回目でした。合計40,440回の努力でした」
「気の長い話です。ゆきおさんが、何やら新しい発明・発見を生み出しそうな話です」
「尊敬すべき集中力と根気です・・・」
「え?(120回ということは、6個目の惑星を並べたところで失敗したのか?)」
「その通りです」
「40,440回ということは、ちきうを入れて8個になるから、冥王星は入っていませんね?」
「その計算通りなのです」
「!」そこで夢が終わりました。
「むにゃ、むにゃ」また、寝てしまっていました。目が覚めて、毛づくろいをして、くつろいでいると大将がそれもソーダを持ってやって来ました。
「ねこた、おめぇ三度目だべ、サービスだ」
「ありがとうございます。ごちそうさまです」と頭を下げてたずねてみました。
「私は、ねこたなのですか?」
「今さら、何いってるだ、名刺を置いてったべ?」
「(あれ? 名刺を置いて行ったかな?)」名刺には、
自由冒険家(ものずき)・自由文筆家(フリーライター) 猫田(ねこた)銀杏(いちょう)
アフリカ・エジプト、未来・過去、天国・地獄、どこでも行きます!
物書き(ライター)の仕事を募集しています!
と書いてありました。私は思わず赤面しました。お酒を飲んで、酔った勢いで作った名刺だったのです。
「冒険家なら、ネコ隊長だ! いよっキャプテンねこた! カッコイイじゃねぇか!」
「それほどでも・・・」赤面は容易に治らなかった。落ち着きを取り戻して、再び質問しました。
「この、3光年って何ですか?」
「店に来た回数だ。今度来て注文すれば、4光年か、4世紀か、4の付く何かになっているだろう」
「すみません、このお店に来た記憶がまちまちなのですが・・・」
「仕方ねぇべ。ねこたの食ったのは、≪銀河系・ステキ・体験コース≫だ。ステーキを食べて、宇宙を旅する素敵なコースを選んだんだから」
「・・・と、言いますと?」
「最近の、偉い人の研究じゃ宇宙では時間が行ったり来たりするらしいじゃないか。未来に行ったり過去に行ったり。だから、それを料理で再現したんだ」
「・・・す・ご・い、じゃないですか!」私は二重まぶたが一重になるぐらい目を大きくして驚きました。
「目が大きいよ」
「猫忍法(にゃんぽう)『開いた目が塞がらない』。驚きの表現です」
「開いた口じゃないのか? まぁいいや。ごまんたるは、聴覚、味覚を刺激して、記憶にうったえかける新しい遊びの飲食店(アミューズメント レストラン)だべ」
「嗅覚や触覚は刺激しませんか?」
「今研究中だが、痛さや冷たさを感じる必要もねぇだ」
「これだけのサービスをして、赤字になりませんか?」
「あんまり言うことじゃないが、感動しすぎて料金の10倍払う10倍客が何人もいる。その人らのお陰で、実験できるだ」
「実験?」
「いや、いや、サービスだ」大将は慌てて取り消しました。
「記憶をいじる・・・。それでは、私が一回目に来たときが未来へ飛んで、二回目に来たときは過去へ飛んだんですか?」
「そ~だよ、たぶん(案内人からの報告がなければ、お前の見た夢は分からん)」大将はてきとーに応えました。
「過去か未来は選べるんですか?」
「料理を食べて、お客さんが見た夢の中で選ぶんだ。んだから、あんたが選んだんだよ」
「(・・・? 私が選んだのだろうか? 夢の中身を思い出してみた。・・・選んだ、かも、しれ、ない)同じメニウは、選べるんですか?」
「作り方を忘れたんで、無理だべな」ねこたは、水をごくりと飲みました。そして、最後にもう一つ聞きたいことがありまた。
「見ると、お客さんは、みんな動物さんですが、これは何か意味がありますか?」
「店も客を選ぶ時代だからな、文句の多い奴には来て欲しくないんだ。おめぇさんは、メニウに涸れた花が挟まっていても、虫の死骸らしきものが挟まっていても、メニウの落書きを見ても新鮮にとらえていた。あれが来店試験だ(虫の死骸じゃなくて、案内人なんだが・・・)」
「来店試験?」
「何を体験しても文句から入る奴は、相手をするのが面倒だ。すぐにSNSに悪口を書きやがる。この店の本当の楽しみ方を知る前に、居なくなるんだ。店に入った途端に聞こえてくる音楽もそれぞれに違っている。メニウの種類も、味の感じ方もそれぞれに感じ方が違うんだ。だから、どれだけ楽しく過ごせるかは、お客さんの想像力次第だ」
「なるほど~」ねこたは、店の遊び方(システム)をようやく理解できました。
「お客さんの姿は、その時考えていた、その時見た、その時なりたかった動物の姿だ。特にないときは、訳の分からない生き物になっている。隣の客が良い例だ。動物ならば、携帯をいじらないし、あんまり文句は言わんものだ。動物になっても文句言う奴は救いようがねぇな」隣では、相変わらず派手なイビキや歯ぎしりがにぎやかでした。
「これを、邪魔くさいとか、やかましいと感じるようならば、あんたも次はここに来れない」
「邪魔くさいどころか、愛くるしい感じですが?」全身が茶色い毛むくじゃらの姿でした。頭に皿のある巨大な生き物でした。手は肉球なのか、ヒレなのか良く分かりませんでした。彼が、これから色々なところに一緒に旅をすることになる猫田の良き相棒(バディ)になる存在でした。
「良いとらえ方だ」と大将は言いました。私は、すっくと立ちあがりました。
「大将、また来ます。今日体験したことを書きとめておきます」
「あぁ、また来るだ」
店の外に出ると、蔵王山に沈む夕日はいつもより大きく、お城に突き刺さりそうになるくらい沈みかけていました。西の空に一番星が煌(きら)めいていました。
「きら~り(アタシがいちばんなのよ!)」
「そうさ! キミがいちばんだ!」その誇らしげな瞬きを可愛いと感じました。
「(何時間、お店にいただろう)」食事をしに来ただけなのに、二日経っているといわれても、何の疑問も抱かないほどの時間感覚になっていました。加えて、感動と肉体疲労でぐったりしていました。
ねこたの週末は毎回決まっていました。富士山のようにたまった仕事に時間を使うことが多かったのです。自分のペースで仕事をして良い会社でしたが、自分が納得するまで何度も原稿を書き直すので、いくらやってもいつも時間は足りませんでした。
「(本当・・・。猫の手も借りたいわ)」とひとりごちました。
「さて、家(ねどこ)に帰って仕事を片付けるか・・・」たまりにたまった仕事を一つずつ片付けて、さし迫ってくる会議に使うための資料を整理することにしました。
そして、自動的にやってくる、在り来たりな月曜日に立ち向かう覚悟を決めました。
「ひとりです」
「ヘイ、一匹だね。カウンターどうぞ! おぅ、久しぶり!」熊の大将が声をかけてくれました。私はかるく会釈して店内に入りました。初めて見る、お猿のお姉さんが私を席まで案内してくれました。店内のBGMは、「アラベスク」でした。
「(ドビュッシーが好きなんだなぁ)」と思いました。今日も店はそこそこ繁盛していました。隣の席では、相変わらず座席に仰向けにもたれかかって、イビキをかいている毛むくじゃらのお客さんがいました。
「ぐぴっぴ~、すぴっぴー、ガガんがガんがが・・・、も~ぐえ゛ん・・・」いびきと歯ぎしりと寝言が成長していました。
「お隣さんは、今日もにぎやかですね~」
「このヒト、120日か130日いるんですよ。有名な芸人さんらしいです」
「ヒトなのですか?」
「わかりません。では、メニウが決まりましたら、お呼びください」お姉さんは、追加の質問をこばみました。
『ふしぎ体験レストラン ごまんたる』
メニウ
行きたい場所は、たんとある
食べたいものも、ごまんとある
ならば同時に楽しもう!
「!」私は、メニウを見て驚きました。普通の店になってしまっています! これだから、文句だけを言う人(クレーマー)は嫌いです。遊べる要素、楽しめる要素、突っ込める要素を一つずつ潰してしまいます。ちょっと悲しくなってしまいました。500ページほどあったメニウは、620ページまで増えていました。
「(これは、追いつけないかもしれない・・・)」私は、冷汗をかきながら、ページをめくりました。
≪銀河系・ステキ体験コース≫
≪愉快系・面白さは世界共通コース≫
≪不思議系・世の中楽しいことだらけコース≫
≪だれだっ系・ネットで調べてみようコース≫
≪・・・≫
「やっぱり・・・。色々なコースが増えている。なかなか追いつけないなぁ・・・」それでも私は、銀河系にしました。
「あれ? こんな組み合わせだったっけ?」
≪銀河系・ステキ体験コース 3光年≫
◎ドリンク:
・プレアデスムージー
◎メイン・メニュー:
・コペルニクステーキ
・ガリレオムライス
◎サラダ:
・JAXA(ジャクサ)ラダ
◎デザート:
・ギャラクシーフードピッツァ
※メテおにぎりは、おかわり自由です!
少し気になったので、お姉さんにたずねてみました。
「3光年って、何ですか? 1光年が食べたいです」
「ありません。どのメニウも一度きりしか食べれないのです。大将(てんちょう)から、『レシピを忘れてしまったと伝えなさい』と言われています」と、言い終わると、ととと、と行ってしまいました。お腹が空いたので、3光年を食べることにしました。
「まんぞく!」それでもお腹は、満たされました。ね、ね、ぬ、ぬる、ぬれ、ねよ。Good night!
例によって、ワニゾウさんが現れました。
「お久しぶりです」
「お久しぶりです。お元気そうで、何よりです」
「今日もお世話になります」
「かしこまりました」というや否や、
「うちうの本質とは、時間が進んでいるか、戻っているかのどちらかであります」本日の遊びの説明が始まりました。私は、追いつけずにいたので、聞き返しました。
「そうなのですか?」
「まぁ、大将の理論ですから・・・」
「さようでございますか」私は、一応納得することにしました。続きが気になったからです。
「ねこた様には、広がるうちうと、閉じるうちうの両方を体験して頂いたので、本日は太陽系の遊びです」
「興味深いですな」
「ごまんたるの三大うちう遊びの一つです」気が付くと、私とワニゾウさんは太陽系銀河を抱えられるほど巨大化しておりました。太陽系銀河が目の前で、グルグル回っております。
「直径は10万光年ほどあります。おそらく中心にはブラックホールがあると思われます。『年』と言う単位がついておりますが、実は距離の単位なのです」
「ご丁寧にありがとうございます。混乱する方も多いでしょう」
「分かりやすいように、太陽系を色付けしておきました。ここです、このあたりにあります」
「私たちの太陽系が、こんな端っこで必死に回っております。いじらしいですな~」目の前で、キラキラと輝く星々が回転しておりました。ピロピロ、きらきら、光りながら音を出しているように感じられました。一番オルゴールの音が似合っていると思いました。
「ぴろピロ、ぽろん、きん、きらら・・・」ウットリしながら、ずっと見入ってしまいました。ワニゾウさんは、私の感動が満足するのを待っていました。
「それでは次に、銀河系を拡大してみましょう」我々は、急に縮小化しました。太陽系を抱えられるほどの大きさになっていました。
「太陽系のお父さんは、やはり太陽さんですね」
「太陽をお母さんだと思う方もいらっしゃるでしょう。それは、感じ方の違いなので、否定は出来ません」
「むわははは! わしに任せろ!」突然、太陽さんが喋りはじめました。でも、表情は確認できませんでした。元気な声だけが聞こえてきます。
「! ワニゾウさん、太陽さんが喋りはじめました!」うろたえる私を、ワニゾウさんは落ち着かせました。
「擬人化(ぎじんか)させてみました。お母さんだと感じた人には、女性の話し方に聞こえます。気になることは、何でも質問なさってみてください」私は質問してみました。
【擬人化(ぎじんか)】
小説や俳句などで使われる技法。擬人法ともいう。人間ではないものを人間のように扱う。動物とも物質ともすべて等しくお付き合いするので、これが出来る人は今いる友達の数を一億倍に出来る。
「太陽さん、熱くないですか?」
「むわははは! わしはエネルギーに満ちておる! 熱くなどないわい! この熱気で皆を温めるのだ! むわははは!」
「いつも、皆さんのために頑張って頂いてありがとうございます」
「何の、なんの。気にすることはない。皆を温めるのは、わしの役目じゃ! 命ある限り温め続けるので、大いに遊びなさい! 学びなさい! 育ちなさい! 受け継ぎなさい! わしに与えられた役割を、わしなりに立派に勤めさせてもらおうかの~、むわはははははは!」
「けち臭い性格ではないので、安心しました」
「人それぞれ、考え方も、好みも違う。それらをいちいち否定してはいかん。自分は自分の考えを全うするだけだ! むわははは!」
「太陽さんには、悩みはありませんか?」
「悩みがあれば、自信が無くなる。自信がなければ、伸び悩む。伸び悩めば、妬みに変わる。悩まずに、前を向きなさい。今の全力を尽くしなさい。ただ、それだけでいい! そのうち変わるよ。 むわははは!」
「ありがとうございます。悩みが吹き飛びました」
「まぁしいて言うなら、他の惑星たちが心配よのぅ」
「水星さんや、金星さんたちのことですか? まるで本物のご家族みたいですね」
「まぁ、家族ではないのだが、家族のようなものだ。何十億年も一緒にいるのだから、情もうつるよ」
「太陽さんが優しい方で安心しました。心配してくれる人がいるだけでも幸せなことだと思います」
「そうだのぅ。それが愛の一つの形なのかもしれんの。心配してあげられる相手がいるだけでも幸せじゃ、その人は孤独ではない」
「心配されて、心配してあげて。お互いに、いい関係ですね」
「そこから優しさが生まれ、どんどん大きくなるのじゃ」
「ありがたいお話をありがとうございました」
「迷ったら、また来なさい」私は、何かスッキリとしました。得難い何かを人ではないものに教えてもらいました。ワニゾウさんは、私と太陽さんとのやり取りを聞いて、目じりが垂れ下がり、口元がほころび、見るからにほっこりしていました。
「それでは次に、参りましょう」私たちは、お隣さんの水星さんに向かいました。
「ねこたさん、惑星さんたちは、とても個性的です」
「さようでございますか」
「男性か、女性か、決めかねると思いますが、それももう古い考えです」
「そうかもしれませんね」
「天体なのですから。話し方だけでは、分からないものです。お気を付けください」
「はい、分かりました」すぐに隣の水星につきました。顔の表情は見えませんが、私には活発(アクティブ)でお洒落(スタイリッシュ)な女性に感じられました。
「あら~、ワニさん、お久しぶり~。そちらは、どなた~?」
「ご無沙汰しております。こちらは、お客様のねこた様です」
「利発そうな方ですね~。私は、ヘルメスと呼ばれております。ルメとでも呼んでください」
「ルメさん、初めまして。私は、猫田(ねこた)銀杏(いちょう)と申します。雑誌に色々な記事を書く仕事をしています」
「それでは、キャプテンさんとお呼びしましょう。キャプテンさんは、どちらからいらしました~?」
「じぱんぐという国の、北の方の端っこからやって来ました」
「そこは、商売が活発な土地かしら?」
「そこそこ活発でございます」
「あちこち飛び回っていそうですね~。儲け話がありましたら、ひとつ教えて下さらない? お手伝いしますわよ~」
「その時には、お願いします」
「待ってるわよ~」
お隣の金星さんは、ひときわ輝いておりました。
「キラキラ」どころではありません。
「きんら、きらきら、これでもか!」と輝いておりました。金星さんは、私には自信に満ち溢れた、博愛の心にまみれたお嬢様に感じられました。見る人によっては、映画俳優(ムービースター)に見えた人がいるかも知れません。
「金星さん、こんにちは。ワニゾウです」
「あら、ワニさん、こんにちは~。あたしが一番なの」
「相変わらず、お美しぅございます」
「あら、ありがと。催促したみたいで悪いわねぇ」
「いえ、いえ、とんでもございません。今日はお客様をお連れしました。こちらは常連の、ねこた様です」
「Oh! Mr.Cat! PRETTY!」
「! ありがとうございます」私は赤面せずにはいられませんでした。惑星を美しいと感じたのは初めてでした。内面から溢れ出る美しさが、もはやこぼれだしていました。
「アタシは、一番なの。御免なさい。自慢してしまって」
「いえいえ、もはやあなた様が一番であることは疑いようがありません」
「一番ゆえに、責任も大きいの。芸術と愛に関する悩みなら任せてちょ~だい」お道化て見える言葉遣いも可愛らしかった。
「何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「そうね~。金星(アフロディーテ)と呼ばれているけど、長いから金ちゃんでいいわよ~」
「気さくな方で、安心しました」
「安心するところから、愛は始まるの。覚えておいて。芸術も安心や愛から始まると、作品の完成が見違えるわよ」ニッコリと笑ったに違いありませんでした。しかし、笑顔は確かめられませんでした。
「勉強になります」
「それでは、次に参りましょう」
「またね~」確認できませんでしたが、間違いなく手を振っていたに違いありませんでした。自信に満ち溢れているからこその心の余裕だと思いました。他人を愛(いと)おしむ余裕が出来るのでしょう。羨ましい限りです。
「我がちきうは個性的な惑星さんに囲まれているのですね」私は感心してしまいました。
「身近なものというのは、なかなか気づかないものです」お隣は、火星さんです。
「こんにちは。火星さん。ご無沙汰しております」
「おっと、これはこれは、ワニゾウさんではありませんか! いや~懐かしい!」火星さんは、歴戦の武士の雰囲気でした。野太い声はよく聞き取れませんでしたが、優しさと暖かさを感じました。体中が刀の切り傷だらけだと感じました。
「前回お伺いしたのは、確か2年ほど前です」
「あの、風変わりな河童どのは、今日は一緒ではござらんか?」
「今日は、常連のねこた様をお連れしました。こちらです」
「初めまして、ねこたと申します」
「これは、これは初めまして、猫田殿。どちらから参られたかな?」
「古くは、じぱんぐと呼ばれた大和の国から参りました」
「はて? やまとの国の戦乱は治まりましたかえ?」
「よーろっぱほど、ひどくはござらん。たいがい治まりました」
「いくさはいかん。平和ならば何よりじゃ。枕を高くして眠られよ」
「ありがたき、おことばです。ごちそうさまです」
「わしは、火星(アレス)と呼ばれておる。戦の神とされておるらしいが、立派な平和主義者じゃ。力で相手の物を奪うことはまかりならん」
「仰せの通りでございます」
「戦いが起こったら、知らされよ。叩いて殴ってどついてでも、止めさせる。平和が一番じゃ」
「ありがたきお言葉でございます」かしこまりながらお辞儀をしました。
「全人類の代表がねこた様で助かりました」と、ワニゾウさんに言われて真っ赤になりました。
「そんなつもりはござらん。アレス殿の言葉にあわせただけで御座います」
「わっはっは~! 面白いやつだの~」恥ずかしくて、顔を上げることが出来ませんでした。
「それでは、次に参りましょう」促されて、その場を離れましたが、まだ赤面したままでした。
お隣は、木星さんでした。ひときわ大きな惑星でした。太陽さんの1/10ほどの大きさですが、威厳に満ち溢れていました。巨大な「大赤斑」でギョロリと睨まれると、心の中を全て見透かされているようでした。私なんかが口をきいていいのかどうか、ためらいました。
「わらわは、木星(ゼウス)、天の神である。ワニゾウや。また、惑星の衝突かえ? わらわに、全て任せてみよ」
「ありがとうございます。いつも助けて頂いて、感謝の言葉しかありません。今日は、お店の常連のねこた様をお連れしました。記事を書いて、みんなに知らせる仕事をしておられます」
「大義だの」
「知らないところで随分助けて頂いているようで、ありがとうございます」私も、頭をさげました。
「うむ。惑星探査も構わぬが、ゴミが増えるのは頂けぬ。ねこたとやら、皆に知らしめて欲しい。うちうを汚すでない、と」
「かしこまりました。きっと伝えます」
「くっくっく・・・」となりで、ワニゾウさんが笑いをこらえていました。
「(私は、ちきうの代表ではないのです)」
「(くっくっく、分かっています。くっくっく・・・)」そして恭しく頭を下げて、お隣を訪問しました。
お隣は、土星(クロノス)さんでした。美味しいものを沢山食べているふくよかな体をした印象でした。
「おや! ワニゾウじゃねぇか! 今年は豊作か?」
「こんにちは、土星さん。今年は大豊作です!」
「んでは、いかった。腹が減るのは辛いことだ。飢饉(ききん)にそなえとけよ。んで? そいつは誰だ?」
「もうし遅れました。私は、ねこたと呼ばれています。世の中の出来事を皆さんに伝える仕事をしています」
「立派な仕事じゃねぇか! んでは、伝えろ。きちんとききんに気をつけろ!」
「かしこまりました。ききんとききんにきんをつけんろ」
「そうではねぇ、きちんと飢饉に気をつけろ!」
「ききんにきにきにきんきをつける」
「わっはっは~、だめだべ」
「きちんとききんき、きんをつけます」
「なかなか、軽やかな性格でいらっしゃいましたね」私はワニゾウさんにたずねました。
「おそらく密度が軽いからかもしれません」
「みつどで、性格が変わるのですか?」
「性格が軽く見えるのは、ねこた様の想像力(イメージ)なのです。相手が、必ず自己主張をしているとは限りません。あくまでも話を聞く受け取りて側の問題なのです」
「なるほど~」深く関心をしました。そして、何を話したか忘れてしまい、次を訪れました。
お隣は、海王星さんでした。激しい嵐を全身で受け止める、芯のしっかりした印象でした。
「ワシは、海王星(ポセイドン)である。隣は土だ。ワシは海だ。二人合わせてめでたいことだ!」
「ご無沙汰しております。今日は、常連のねこた様をお連れしました」
「うむ。ちきうは、異常気象で苦しんでおるようだの。エルニーニョ・そりゃねーよ」
「?」
「異常気象が人間のものか、それ以外のものか・・・。台風・大変。サイクロン・くさいろん」悩んでいる風貌で繰り出される、駄洒落の数は半端ないものでした。駄洒落でも言わなければ、気がまぎれないのかも知れませんでした。次々に繰り出される駄洒落を二十ほど聞いてから、隣を訪ねました。
お隣は、冥王星さんでした。話さなければ、随分ハンサムでイケメンな印象でした。
「つい、この間まで、仲間だったんだぜ~。信じられないよ!」冥王星さんの愚痴から始まりました。
「俺さまは、冥王星(ハーデス)。死者の星さ。おいらが仲間じゃないんだから、死んだら行くところがないぜ~。さまようぜ~。大変だぜ~。困ったろ~? 早く仲間に教えて上げな。おいらを仲間に戻しなさい」
「は、い」と返事をする言葉を遮って、
「死はつらいぜ~。死んだことがないけどね~。つらいに決まってるぜ~。困るだろ~? 早く仲間に教えてあげな~。明日からまた、仲間だぜ~」
「は、い」と返事をする言葉を五回ほど遮られました。
「・・・」
「・・・」帰りは、ワニゾウさんと無言が続きました。
「何と言って、良いのでしょう」私は、考えがまとまらないまま口を開きました。
「はい、何でしょう?」
「今、話してきた星々さんたちは、私の勝手な想像力(イメージ)なのですか?」
「はい、そのとおりで御座います。普段から、ねこた様が考えているイメージが具現化したものです。『ごまんたる』はきっかけにすぎません」
「見た人によって、考えによって、惑星さんたちの受け答えも変わりますか?」
「そうなのです。ねこた様は、穏やかな対応でした。なかには、ケンカしてしまう方もおられます。イメージとケンカするのです。見ていて滑稽(おもしろい)です」そして私たちは、再び太陽系を抱えられるほどの大きさになりました。
「(もし自分が盲目だったら、彼らと仲良くなれるだろうか?)」ねこたは、そんなことを考えていました。目に見えないのだから、言葉で感じるしかありません。
「(きっと、仲良くなれるさ!)」そんな自信しかありませんでした。
「それでは、帰り際に『太陽系・実験ショー』をしましょう」とワニゾウさんにいわれました。
木星がバスケットボールの大きさになりました。もはやしゃべる惑星さんたちではありませんでした。だから、私はワニゾウさんにたずねました。
「惑星さんたちが、しゃべりませんね?」
「積み上げ遊びをすると、このみを主張したりわがままを言いだすので、擬人化を止めています」
「なるほど」私は納得しました。そしてもう一つ疑問に思いました。
「急に小さくなりすぎたので、太陽の位置もちきうの位置も分かりません」
「太陽は、木星の10倍ほどの大きさなのですが、ここからだと1,300km先にあります。見えませんよね? 太陽に近づいてみましょう」我々は太陽に近づいて、ちきうがバスケットボールほどの大きさに感じられるくらいに縮小化しました。
「太陽って、大きいですな~」
「ちきうの100倍以上あります。何かやってみたいことはありますか?」
「ちきうは、太陽のまわりを地軸を傾けながらクルクル回っていますが、地軸の傾き直していいですか?」
「構いませんよ。これはちきうであり、地球ではありません。あなたの行為は、宇宙には何の影響も与えません。勉強だと思って色々試してみましょう」私は、傾いている地軸を公転面に垂直にしてみました。しばらくは何の変化も見られませんでしたが、北極と南極が露骨に凍りはじめました。赤道付近は、海水が沸騰しているように見えました。
「気のせいですか?」
「気のせいですよ。はっはっは」ワニゾウさんは、ただ笑っていました。
ちきうの軌道を太陽に近づけると、ちきう上の海水が蒸発してしまいました。
ちきうの軌道を太陽から遠ざけると、海水は凍り付いてしまいました。
太陽の光をさえぎってみても、ちきうは難儀そうでした。
「どうやっても、ちきうは悲鳴をあげます」
「太陽とちきうのバランスはデリケートですからな~。本当の奇跡です」神様の好奇心という奴は、残酷なのかも知れません。
「ちなみにゆきおさんは、ここで何をしましたか?」
「あの方は、太陽の上に大きい天体から順番に並べていました。天体はツルツルすべるので、重ねられるハズがありません。120回失敗したところで、見かねた大将が天体どうしの重力を少し働かせると天体どうしを重ねられるようになりました。全て重ね終わったのは、40,320回目でした。合計40,440回の努力でした」
「気の長い話です。ゆきおさんが、何やら新しい発明・発見を生み出しそうな話です」
「尊敬すべき集中力と根気です・・・」
「え?(120回ということは、6個目の惑星を並べたところで失敗したのか?)」
「その通りです」
「40,440回ということは、ちきうを入れて8個になるから、冥王星は入っていませんね?」
「その計算通りなのです」
「!」そこで夢が終わりました。
「むにゃ、むにゃ」また、寝てしまっていました。目が覚めて、毛づくろいをして、くつろいでいると大将がそれもソーダを持ってやって来ました。
「ねこた、おめぇ三度目だべ、サービスだ」
「ありがとうございます。ごちそうさまです」と頭を下げてたずねてみました。
「私は、ねこたなのですか?」
「今さら、何いってるだ、名刺を置いてったべ?」
「(あれ? 名刺を置いて行ったかな?)」名刺には、
自由冒険家(ものずき)・自由文筆家(フリーライター) 猫田(ねこた)銀杏(いちょう)
アフリカ・エジプト、未来・過去、天国・地獄、どこでも行きます!
物書き(ライター)の仕事を募集しています!
と書いてありました。私は思わず赤面しました。お酒を飲んで、酔った勢いで作った名刺だったのです。
「冒険家なら、ネコ隊長だ! いよっキャプテンねこた! カッコイイじゃねぇか!」
「それほどでも・・・」赤面は容易に治らなかった。落ち着きを取り戻して、再び質問しました。
「この、3光年って何ですか?」
「店に来た回数だ。今度来て注文すれば、4光年か、4世紀か、4の付く何かになっているだろう」
「すみません、このお店に来た記憶がまちまちなのですが・・・」
「仕方ねぇべ。ねこたの食ったのは、≪銀河系・ステキ・体験コース≫だ。ステーキを食べて、宇宙を旅する素敵なコースを選んだんだから」
「・・・と、言いますと?」
「最近の、偉い人の研究じゃ宇宙では時間が行ったり来たりするらしいじゃないか。未来に行ったり過去に行ったり。だから、それを料理で再現したんだ」
「・・・す・ご・い、じゃないですか!」私は二重まぶたが一重になるぐらい目を大きくして驚きました。
「目が大きいよ」
「猫忍法(にゃんぽう)『開いた目が塞がらない』。驚きの表現です」
「開いた口じゃないのか? まぁいいや。ごまんたるは、聴覚、味覚を刺激して、記憶にうったえかける新しい遊びの飲食店(アミューズメント レストラン)だべ」
「嗅覚や触覚は刺激しませんか?」
「今研究中だが、痛さや冷たさを感じる必要もねぇだ」
「これだけのサービスをして、赤字になりませんか?」
「あんまり言うことじゃないが、感動しすぎて料金の10倍払う10倍客が何人もいる。その人らのお陰で、実験できるだ」
「実験?」
「いや、いや、サービスだ」大将は慌てて取り消しました。
「記憶をいじる・・・。それでは、私が一回目に来たときが未来へ飛んで、二回目に来たときは過去へ飛んだんですか?」
「そ~だよ、たぶん(案内人からの報告がなければ、お前の見た夢は分からん)」大将はてきとーに応えました。
「過去か未来は選べるんですか?」
「料理を食べて、お客さんが見た夢の中で選ぶんだ。んだから、あんたが選んだんだよ」
「(・・・? 私が選んだのだろうか? 夢の中身を思い出してみた。・・・選んだ、かも、しれ、ない)同じメニウは、選べるんですか?」
「作り方を忘れたんで、無理だべな」ねこたは、水をごくりと飲みました。そして、最後にもう一つ聞きたいことがありまた。
「見ると、お客さんは、みんな動物さんですが、これは何か意味がありますか?」
「店も客を選ぶ時代だからな、文句の多い奴には来て欲しくないんだ。おめぇさんは、メニウに涸れた花が挟まっていても、虫の死骸らしきものが挟まっていても、メニウの落書きを見ても新鮮にとらえていた。あれが来店試験だ(虫の死骸じゃなくて、案内人なんだが・・・)」
「来店試験?」
「何を体験しても文句から入る奴は、相手をするのが面倒だ。すぐにSNSに悪口を書きやがる。この店の本当の楽しみ方を知る前に、居なくなるんだ。店に入った途端に聞こえてくる音楽もそれぞれに違っている。メニウの種類も、味の感じ方もそれぞれに感じ方が違うんだ。だから、どれだけ楽しく過ごせるかは、お客さんの想像力次第だ」
「なるほど~」ねこたは、店の遊び方(システム)をようやく理解できました。
「お客さんの姿は、その時考えていた、その時見た、その時なりたかった動物の姿だ。特にないときは、訳の分からない生き物になっている。隣の客が良い例だ。動物ならば、携帯をいじらないし、あんまり文句は言わんものだ。動物になっても文句言う奴は救いようがねぇな」隣では、相変わらず派手なイビキや歯ぎしりがにぎやかでした。
「これを、邪魔くさいとか、やかましいと感じるようならば、あんたも次はここに来れない」
「邪魔くさいどころか、愛くるしい感じですが?」全身が茶色い毛むくじゃらの姿でした。頭に皿のある巨大な生き物でした。手は肉球なのか、ヒレなのか良く分かりませんでした。彼が、これから色々なところに一緒に旅をすることになる猫田の良き相棒(バディ)になる存在でした。
「良いとらえ方だ」と大将は言いました。私は、すっくと立ちあがりました。
「大将、また来ます。今日体験したことを書きとめておきます」
「あぁ、また来るだ」
店の外に出ると、蔵王山に沈む夕日はいつもより大きく、お城に突き刺さりそうになるくらい沈みかけていました。西の空に一番星が煌(きら)めいていました。
「きら~り(アタシがいちばんなのよ!)」
「そうさ! キミがいちばんだ!」その誇らしげな瞬きを可愛いと感じました。
「(何時間、お店にいただろう)」食事をしに来ただけなのに、二日経っているといわれても、何の疑問も抱かないほどの時間感覚になっていました。加えて、感動と肉体疲労でぐったりしていました。
ねこたの週末は毎回決まっていました。富士山のようにたまった仕事に時間を使うことが多かったのです。自分のペースで仕事をして良い会社でしたが、自分が納得するまで何度も原稿を書き直すので、いくらやってもいつも時間は足りませんでした。
「(本当・・・。猫の手も借りたいわ)」とひとりごちました。
「さて、家(ねどこ)に帰って仕事を片付けるか・・・」たまりにたまった仕事を一つずつ片付けて、さし迫ってくる会議に使うための資料を整理することにしました。
そして、自動的にやってくる、在り来たりな月曜日に立ち向かう覚悟を決めました。