ハリボテロミオの夏の夢

急に後ろから声をかけられて、びっくりしたレテが体から出ていってしまう。
その拍子に手から缶が滑り落ちて、地面に当る。
カンっという高い音が、夜の街に響いた。


「と、当然すみません!」

「っ……!?」


慌てて缶を拾いながら聞こえたのは、聞き覚えのある声だ。

え、嘘だろ……。
なんで、こんなところに?
でも違う人かもしれない。

いや、そんなわけない。
ほぼ毎日、この声を聞いてるんだ。

僕がこの声を、聞き間違えるわけがない。 


「さっき……あそこでロミオをやってた人、ですよね?」


ゆっくりと振り返る。
そこには思った通り、あの朱里さんが立っていた。
彼女はまっすぐ、僕を見つめている。

ど、どうしよう!!!
頭の中はパニックだ。

さっきのショックで、レテはもう体から出ていってしまっている。
僕がなんとかするしかない。
ちらっとレテの方を見てみると、僕に向かって一生懸命手を合わせて謝っていた。

……こればっかりは仕方ない。
誰がこんなタイミングで朱里さんに声をかけられるなんて思うだろう。

でも、この場をなんとかしないと……。
あのロミオを演じたのが僕……というか、レテではあるんだけど、体は僕だから僕だってバレるわけにはいかない。

すっと、僕は朱里さんに気づかれないように息を吸う。

……レテは三匹の中で、一番明るい天然タイプだ。
でも鋭い質問をしたりするから、ただ天然なだけじゃない。
イデとアルが口論になってると、仲裁に入ることが多いから、割とまとめ役もできるんだろう。

……そう、レテの性格を思い起こす。

そして、


「うん、そうだよぉ」


と、僕は朱里さんに笑顔を見せた。
レテなら、きっとそうするだろうから。

そう。僕は朱里さんにバレないように、レテになりきることにしたのだ。
そんな僕を見て、朱里さんは一瞬目を丸くする。けれど、すぐに元に戻った。

多分、バレてない……と思う。
僕はドキドキしながら、持っていた缶をブレザーのポケットにしまう。


「あ、えっと……さっきの演技、素敵でした」

「そぉ?ありがとぉ」


そう言って、朱里さんに向かって手を振る。
朱里さんはまだ何か言いたそうにしている。けれど、これ以上何か話して、ボロが出るわけにはいかない。
僕はあえて、もうこれで会話はおしまいというオーラを出した。
朱里さんもそれを感じとったようで、ぺこりと小さくお辞儀をすると、僕に背を向けて駅の方に向かっていく。

よし。
これで大丈夫だ。

けど、


「え……っ?」

「あ……」

< 22 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop