エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。




「……順調です。航大さんはまだ麗が療養中だと思っているようです」


 私は震える声を必死に抑え、何度も練習してきた麗としての言葉を吐き出した。航大くんは最初から麗じゃないってわかってた。いつから知っていたのかわからないけど、最初からバレていたのを知られたらどうなるかわからない。

「ふん。そうか、ならいい。今後、榛名家の弱みと金銭的な支援を引き出す機会を増やせ。お前が役に立たなければ、あいつも、スタッフも路頭に迷うことになるぞ」

「し、しっかりやっております……っ」

「あいつは、お前の父親は……以前、親父から金銭的援助をしてもらっていたんだ。いまだにまだ返済には至ってない。そりゃそうだ、クリニックには昔からの奴らしか来ないからな」


 伯父の言葉は容赦なく、私の胸を深く抉った。現在は父が経営と医師をしているりすこどもクリニックは、母方の祖父の代から続いており母が大切にしてきた場所だ。
 小さいけど小さな子どもたちの絵が飾られた待合室があって父にとっては母との思い出が染み込んだ場所でもある。
 なのにそんなふうに言われるのは悲しい。

 反論したいのにできない自分がもどかしくて、唇の内側を噛んでしまう。

 クリニックで働き始めてからのことを思い出す。受付カウンター越しに見た子どもたちの顔。診察後に父に「先生ありがとう」と言って帰っていく小さな背中、毎日声をかけてくれるスタッフの先輩たち。

 父が夜遅くまで診察室の電気をつけていた日々。みんな無事だろうか。父は元気だろうか。私がここで麗として生きていれば、みんなが辛い思いをしなくて済むんだと信じている——だから私は、航大くんを裏切らないといけない。




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