役目を終えたはずの巫女でした番外編

膨大な魔力の行方

■巫女リエット視点

私は巫女として結界の張り替えが可能で、破れを断ち、構造を組み直すこともできます。

ただ、結界はこの世界の力だけでは保てない。異世界の力があって、ようやく均衡が成り立つのです。

それが、私の役目の前提です。

正式に巫女となったのは十六の時でした。

まだ結界の重さに慣れきっていない頃、異世界の巫女であるサクラは、すでに結界の修正に立っていました。

サクラは、この国では見慣れない顔立ちをしていました。本当にどこにでもいる、平凡な女性でした。

サクラが結界の修正をしているところを、初めて見た日のことを、今でも思い出します。

大きく力を放つことはない。構造を一変させることもない。

ただ、綻びを見つけては、正確に縫い重ねていく。

無理をしない。足りないところにだけ、手を入れる。

出力が高くないからこそ、技術で補っているのだと、そう感じたのを覚えています。

同じ頃、サクラの護衛任務に入る若い騎士がいました。

クロトです。

まだ副師団長でもなく、特別な立場でもない。私と同世代の若い騎士でした。

ですが、その魔力は明らかに異質だったことを、今でも覚えています。

年齢に似合わないほど膨大で、それでいて常に一定に保たれている。

押さえ込んでいるというより、揺れを許さない。

幼い頃から積み重ねてきた制御なのでしょうと、当時は思っていました。

若いのに、完成している。

やがてクロトは特別副師団長となり、サクラの護衛責任者となります。

その頃には、私はある変化に気づいていました。

サクラの修正は、クロトが近くにいるとき、わずかに安定しているということに。

目に見える差ではありません。けれど、継ぎ目が穏やかで、より滑らかになっている。

そして同じように、クロトの魔力にも余裕があるように感じていました。

膨大な量を抱えながら、常に一段分の余力を残している。

それが当たり前の均衡だと、私は思っていたのです。

そして、サクラが巫女の突然の交代とともに、この世界からいなくなりました。

クロトの魔力量は変わりません。出力も精度も、以前と同じ。

けれど、質が違いました。

揺れがないのではない。揺れを、許していない。

振幅は小さく、常に強く制御されている。

まるで余裕がない。

膨大な魔力を、必要以上に抑え込んでいる。

それでも彼は乱れない。崩れもしない。

だからこそ、分かる。

あれは未熟さではない。動揺なのだと。

そして、サクラが再召喚で戻ってきました。

劇的な変化が起きたわけではない。

ただ、振幅は戻る。抑制はわずかに緩み、余力が残る。

それだけの違いです。

けれど私は、結界を扱う者として思うのです。

膨大な魔力の行方は、ずっと前から、静かに定まっていたのではないかと
< 5 / 5 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

不吉を呼ぶ姫は愛されないはずだった

総文字数/56,456

恋愛(純愛)27ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
黒髪と黒い瞳を持って生まれた私は、「不吉を呼ぶ姫」と呼ばれ、幼い頃から塔で暮らしてきた。 そんな私に突然告げられたのは、トルシア王国の王弟ウィル・トルシアとの婚約。 けれど、それは恋愛ではなく、隣国ゼリアへの抑止力として結ばれる形だけの婚約だった。 だから期待してはいけない。 私に興味などないはずだし、仮初めの婚約が終われば二度と関わることもない。 そう思っていたのに――。 不吉を呼ぶ姫と呼ばれ続けた王女と、国を守るために生きてきた王弟。 少しずつ形になっていく恋の先で、二人は思いもよらない運命に向き合うことになる。
表紙を見る 表紙を閉じる
異世界で暮らし始めて二年。 私はただ、ここで生きていくために、薬師として働いていた。 恋なんて、縁のないものだと思っていたのに。 ある日、店に訪れた一人の武官。 ただの客のはずだったその人に、なぜか心を引き寄せられてしまう。 無愛想で、距離のある人。 それでも、ふと見せた柔らかな笑みが忘れられなくて—— 届くはずなんてないのに。 それでも、気になってしまった。 ※完結済みです
表紙を見る 表紙を閉じる
異世界に来て10年。 高校1年のとき、事故をきっかけに異世界へと迷い込んだ田中緑は、町の食事亭で働きながら穏やかな日々を送っている。 そんな彼女には、ずっと胸の中にしまい続けている想いがあった。 ――この世界で最初に出会い、自分を助けてくれた狼の半獣人の騎士、バルスへの片想い。 ぶっきらぼうで、不器用で、それでも優しい彼。 けれど、その想いを伝えるつもりはなかった。 自分は選ばれないと分かっているから。 彼にとって自分は、ただの「懐かれた異世界人」でしかないと知っているから。 それでも、そばにいられるだけでよかった。 そう思っていたはずなのに―― 近づいた距離と、すれ違った想い。 気づかないまま重なっていく感情。 これは、10年続いた片想いが、少しずつ形を変えていく物語。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop