眷属少女のブーケット

新しい、が来る



「セェエエエエエエエラスゥウウ!!」

「テェエエエエエエエスタァアア!!」
 

 互いの拳がぶつかり合い、小爆発によって周囲が煙と砂埃に包まれた。煙の中で最後まで立っていたのは——もちろん私、テスタさん!

 
「ガハハハ、勝った勝った」

 
「それでこそ、私の娘です」
「テスちゃん凄ーい!」
「やったなテスタ!」
「お前さんなら大丈夫だって信じてたよ」

 
「ミリアムさん!ミリガン!ルチャル!オズさん!」

 
「うむ、やはり君は我が学院はじまって以来の秀才だ」
「もう次のテストで花丸100億点満点つけておくよ」
「やっぱりテスタさんになら、ノイのことをお願いできそうね」
「そうだね、ウルトラお似合いの夫婦だ」

 
「理事長!クレープス先生!お義母さん!お義父さん!」
 

 いつの間にか、皆んな周りに集まって来ていた。ガルボン邸のメンバーも、クラスメイトも、倒れていたセラスもヴィオレラに助け起こされ「テスタさんには敵わないよ」と、私のことを羨望の眼差しで見ている。
 

「テスさん」

 
 そう呼ばれるだけで、頭のてっぺんから爪先まで痺れたような感覚になる。振り返るとそこには、いつもみたいに優しい眼差しで私を見つめるノイたんがいた。
 

「決闘お疲れ様です。すっごくカッコよくて、もう見ているだけで何度惚れ直したことか」
「まっ……ね、本気出したらまぁ、こんな感じですよ、うん」
「貴女がお嫁さんになってくれて、ボクは本当に毎日が幸せです!」

 
 スッと距離を詰められ、チュッと頬に柔らかい感触がしてニヤける。暫く余韻に浸っていたかったけれど、皆んなが叫んで胴上げをし始めたからもう仕方がない。

 
「わーっしょい!わーっしょい!」
「テスタさん凄ーい!テスタさん凄ーい!」

 
「ダハハハハ……ダーーハッハッハッハッハ、あ痛っ!えっえっ?」
 

 突如、顔面から地に落ちて叩き付けられた。鼻先が痛い。慌てて撫でさすって、折れてないかを確認してみる。

 
 周囲を見渡せば……本がぎっしり詰まった本棚を中心に、シックで高級そうな家具と沢山の植物が配置された部屋にいた。私の部屋に似ているけれど、色合いは白と黒とロイヤルブルーで統一されている。

 
「と、ということは」
「テスさん!大丈夫デスカ!?」
「ウッウホッ、ノイたん!」

 
 驚いてつい、ゴリラのような声が出てしまった。


 恥ずかしさから慌てて、天蓋ベッドの柱に寄りかかり「なんでも無いですが?」と腕を組んでみる。
 

「おかしな声が聞こえたので、急いで戻ってキマシタ」
「う、うん、全然、大丈夫だよ」
「……本当デスカ?」
「うん、まぁちょっとベッドから落ちただけだし」
「駄目じゃないデスカ!」

 
 すぐさま抱き上げられ、ベッドの上に寝かされる。

 
 籍を入れているとはいえ、式もあげていないのに夫の寝所に入るだなんて……淑女として、良いんだろうか?

 
「少しですが意識を取り戻している時間があったので、その間にトゥルぺ達に着替えと清拭をやらせたのですが、覚えてイマセンカ?」
「言われてみれば、なんとなく、うっすらボンヤリ」
「ああやっぱり、本調子じゃないみたいデスネ」

 
 熱はないかと額に手を当てられるのを、静かに受け入れる。確かに今着ているのはボロボロになった制服ではなく、ツヤツヤと光沢のあるシルクの真白いパジャマだ。清潔な姿で療養できたと、後で皆んなにお礼を言っておかないと。

 
「そうだ!学院!学院は!?」
「学院でしたら、今日で3日間休んでイマスヨ」
「ノイたんも?」
「もちろん!魔力のこともありますし、ずっと付きっきりで看病してマシタ♡」
「な、なんてこった」
 

 私が怪我をした時には、ノイたんから直接魔力を流し込んでもらうのが一番良いと聞いてはいたが……それでまた彼に学院をサボらせたとあってはいけない。良妻への道のりが遠ざかってしまう。

 
「ノイたん!学院行くよ、今すぐ準備して!!」
「えっですがまだ本調子デハ」
「いや逆にこれ以上寝てたら体調悪くなっちゃう、取り敢えずシャワー浴びて来るから、ダイニングで待ってて!」
 

 寝ている場合ではない。身支度のためにベッドから飛び降り、バスルームへと走った。
 

 ◇
 

「あ~~皆んな、おはよう」
「テスちゃん!おはよう!怪我は?もう動いて大丈夫なの?あの変態に何かされてない?」
「うん、もうバッチリ。ていうか変態って誰のこと?」
「ノイ様」
「おお……シンプル失礼」


 Cクラスに足を踏み入れた途端、ミリガンが駆け寄って来てくれた。他の皆んなも私に気付いたのか、声をかけてくれる。
 

「3日ぶりだな。間に土日が挟まったって言っても、テスタがいないとなーんか静かで寂しかったな」
「ごめんねルチャル。テスタさん、Cクラスの賑やかし番長としてあるまじき失態」
「いつのまにそんな肩書きが」

「ダーリン久しぶり~!決闘観てたよ、2人とも迫力があってすっごく楽しかった」
「セラス強いから、テスタが無事で良かった」
「ボロボロにされたけどね……あ、そういえばセラスは?ヴィオレラもまだ来てないみたいだけど」
 

 その時、ガラリと後ろのドアが開いた。入ってきたのはヴィオレラとセラス——

 
「……」
「……」
「……え、まさかの、テスタさんリスペクト?」
「そんなわけないだろう、この阿呆」

 
 グッと嫌そうに顔を顰めたセラスの髪は、最後に見た時よりも短くカットされていた。私ほどじゃないけれど大分、首周りが涼しげだ。後ろにいる皆んなもセラスの変化に驚いてたのか。しんと静まり返っている。
 

「これはケジメだ。貴様と戦った時、攻撃手段が髪に偏りすぎていたからな……だからこそ、一心して次に備える」
「また、戦ってくれるんだ?」
「『次までにもっと強くなっておく』と言ったのは貴様だろ。なら私はさらに強くなっておくだけだ」

 
 それだけ言って、真っ直ぐ席に向かうセラスの後ろを見送る。最初は完膚なきまでにボコボコにしてやろうと思っていたけれど、元気そうな姿が見れて、嬉しかった。

 
「ちょっと!言っとくけど、私もアンタに挑戦する権利はあるんだからね!セラスばっかじゃなくて、私のこともちゃんと覚えときなさいよ」
「ええーヴィオレラか……病み上がりに重量級の相手はちょっと」
「な、なんですって!」

 
 ヴィオレラに胸ぐらを掴まれたタイミングで、朝のホームルームを告げる鐘が鳴った。皆んなと急いで席につき、またやつれた様子のクレープス先生を迎える。
 


 もうすっかり馴染んだ学院生活だけれど、また新しい毎日が始まる予感がしていた。

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