眷属少女のブーケット

フェレスの占い

 
 あまり目立たないが、植物園の温室の先には開けた土地がある。
 丘に沿うように作られた学院内では珍しく、わざわざ理事長自らが地面魔法を使って整えた空き地だ。

 不思議に思って理由を聞けば「もう少ししたら、ここに色んな魔法植物を植えた迷路を作って欲しいんだ。きっと綺麗だからね」とウインクを添えて返されたけど、オズさんが言うには「信じるなよ。要するに校則違反した生徒をぶち込んで遊べる場所が欲しいだけだからな」という事らしい。
 
 でも今のCクラスにはありがたい場所だ。
 練習や占いをしていても、ここなら校舎からは見えないし空中から偵察されていてもすぐに気付ける。

 
「これくらいの広さで良い?」
「良い。すぐ準備する」
 

 そう言って、フェレスは担いで来たツギハギだらけのボンサックから薪をいくつも取り出して積み上げた。レンガくらい大きなマッチ箱も横に並べているのを見るに、焚き火をするらしい。

 占星術ならある程度授業で習ったけれど、焚き火が必要な占いなんて見た事も聞いた事も無い。想像していたよりも手間がかかる準備に、いったいどんな占いになるのかとワクワクしてきた。
 

「他に何か手伝えること無い?」
「無い。自分でやらないといけないから」
 

 わかったと頷いて、後ろにいるオズさんの方へ振り返る。場所を使わせてもらってるから、ちゃんとお礼を言わないと。

 
「本当にありがとうございます。部活中でも無いのに、押しかけちゃってすみません」
「別に俺の土地じゃないんだ、火の始末にだけ気を付けてくれたら構わんさ。まぁおまえさんなら大丈夫だと思うが」
「必ず掃除してから帰ります」
「おお……じゃ、頑張れよ」
 

 そう言って、オズさんは足早に去って行った。多分、皆んなに物珍しそうに見られるのが嫌だったんだろう。

 でもアレじゃあ逆に怪しく見えると思うのだが。
 

「知ーらなかった!管理人さんってお話しできたんだね!」
「私もこの間少し喋ったけど、なんか普通のおじさんって感じだったよ。あと別に理事長の愛人じゃないって」
「嘘ぉ、あんなどこ行く時も理事長の後ろに引っ付いてるのに?」
「先生方と違って管理人としてでなく、理事長が個人的に雇っている方なのかもしれないぞ」
 
「槍構えて突っ込もうとしたらあの人に片手で押さえられてさ、もうビクともしないんだよ。俺ももっと鍛えなきゃだな」
「ひぇ~ルチャルでそれなら、俺なんて掴まれた時点でバラバラにされちゃうかも……」
 

 私とフェレスの他にも、少し離れた位置にハニー(アミュレット)、ミリガン、ヴィオレラ、セラス。ルチャルにヴァンと、それと何故かジンジャーとマイオが空き地に集合していた。

 ハニーとヴィオレラとセラスは昔馴染みなもあって、フェレスが占いを得意としているのは知っていたようだけれど、実際にやっている場を見るのはこれが初めてらしい。
 

『えっ占ってもらった事無いの?』
『ん~だって、知りたい事とかまだ別に無かったから』
『アンタは初回5千円で済むから良いけど、私の時はアイツ『友達料金で1万円になります』とか言ってたのよ』
『私はノイ様と仲良くなれないかを占ってもらおうとしたら『結果がわかりきってるのはちょっと』だと。全く失礼な!』
 

 とはいえ、教室で私を誘ってくれたフェレスは自信がありそうに見えた。5千円は確かに安いお金じゃないけれど、メイド時代からの貯金にはまだまだ余裕があるし、最近では部活の休みに購買でちょっとしたアルバイトをさせてもらっている。

 寧ろこれくらいで他クラスの情報がわかるのなら、安いもんだ。
 

「お待たせ」
「はーい……あっ」

 
 振り返るとフェレスの服装が、制服から長いローブ姿に変わっていた。口元まで布で覆われ、藍色の瞳が不思議な光を放っている様子はとても神秘的に感じる。
 黒地のローブにはカラフルな刺繍が施されていて、様々な動植物が星空の中で踊っているように見えた。

 
「うおおフェレス綺麗!刺繍も良い!!」
「これは、自分で縫ったやつ」
「すっ凄い、良いね~刺繍上手いの。私刺繍好きだけど、縫い物全般が昔っから下手だから羨ましいや」
「そうなの?でもハンカチのは?」
「あ、これはね。ノイたんがしてくれたやつなんだ」
 

 制服のポッケから取り出した白いハンカチには、デイジー、チューリップ、マリーゴールド、キキョウ、ヒマワリが緑の蔓草に囲まれた刺繍が施されている。
 ブルーメリッターの皆んなを裁縫をしようとして、血だらけになっていた私を見かねてノイたんが縫ってくれたのだ。

 以外な事に、彼は魔法を使わずに刺繍をする。理由を聞いてみたら「まだ幼い頃、母が読んでくれた絵本に『魔法だけで作った服を着ていたせいで、うっかり魔力が切れて大勢の前で醜態を晒した男の話』があったんデス」「その話を聞いて以来、衣類に関する事だけは自分でなんとか出来るようにしれてるんデス」と、リンゲルを縫いながら教えてくれた。
 

(そうだ!体育で勝てた時のお願い事は、ハンカチの中にカボさんを追加してもらうのもありかもしれない)
 

「ノイ様も刺繍、出来るんだ……ふーん……良い…」
「ありがとう、伝えておくね」
「おい今なんと言った!?ノイ様の刺繍!?」
「なんでもない。もう始めるから、テスタ以外はこっち来ないで」
 

 フェレスに手を引かれ、いつの間にか地面に描かれていた円の上に立たされる。
 私は何をすれば良いのだろう。チラッと視線を送ると「そこから出ない程度に、じっとしてて」と片手で制された。
 

「じゃ、いくよ」

 
 そう言ってフェレスは懐から、何やら青い玉(木の実かな?)を2つ取り出して焚き火に投げつけた。
 赤々と燃えていた火が、怪しげな紫色に変わる。ラベンダー・オレンジ・ローズマリーと良い香りが順々に、煙に乗って漂う。
 


 するといつの間にか、星空の美しい荒野に立っていた。



 驚いて辺りを見渡しても、皆んなの姿も学院も見当たらない。フェレスと焚き火と、後は果てしない荒野と星空だけが広がっている。
 もう夏が近付いている時期なのに、息が白くなるほど寒い。
 

「誕生日は?」
「えーと……8月の、26日」
「甘いの好き?」
「好き。あ、でも普通くらいかな。物によっちゃあ辛味とか苦味が強い方が好きだし」
「もし目の前にお椀いっぱいの目玉を食べる猿が現れたら、どうする?」
「お茶を淹れて差し上げる」
「ん、良し。大体わかった」

 
 フェレスの指先に、一枚のカードが現れる。教室で弄っていた物だ。私の方からは何が描かれているのかは見えない。フェレスはカードを確認すると、星空に向かって指で投げた。
 
 するとカードを中心に、星空にオーロラが広がった。
 

(本物だ、デカい、凄い!!ミリアムさんにも見せてあげたいな)
 

 カーテンみたいな形をしているイメージだったけれど、ゆっくりと光が伸びてゆく様子は煙に似ている気がする。美しい光景に、ただ私は目と口をかっ開いて震える事しか出来ない。
 

 キリリと、不思議な音がした。音の方を向けば、フェレスの手に光り輝く弓矢が握られている。
 さっきの音は、弓を引き絞る音だったのか。
 

『どうか導きを——ゾータル・テオリード(凶星落とし)』

 
 矢が放たれ、凄まじい勢いでカードを射抜く。
 

 辺り一面が、強烈な光で真白く染まって行く——
 

 ◇


 
「……ちゃん、テスちゃん!」
「ボァッ!?スッ、ん、あれ?」
「あ、気が付いたみたい」
「フェレスー、もう俺達そっちに行っても良いかー?」
「良いよ。終わったから」
 

 シャボン玉が弾けたように、感覚が戻ってきた。立った状態のままだけど、今まで眠っていた気がする。
 
 左の方を向けば、そこには見慣れつつある校舎とこっちに走って来るミリガン達がいた。フェレスが焚き火を消している以外は、辺りは占いが始まる前のままだ。

 
 あの荒野はいったいどこに行ってしまったのだろうか?
 

「テスちゃん大丈夫?なんかずっとボンヤリしてたけど」
「大丈夫!や~占いって凄いね、いきなり夜になるし荒野に飛ばされるしオーロラは見れたし光がビャアアアってなるしで……あれっ」
 

 両手を振って興奮する私に対し、皆んなは驚いたり困惑したりしている。

 言いづらそうにルチャルが「俺達にはテスタもフェレスも、ずっとそこに立ってるだけにしか見えなかったんだけどな」と教えてくれた。
 

「ん~?ひょっとして幻覚?」
「ちょっとフェレス!アンタまさか焚き火に変な草とか使ってないでしょうね!?」
「いや、心配いらないよ。変な物は混ざって無かったって、俺の鼻が言ってる」


 ライカンスロープ種のヴァンがそう言うのなら、私は危険な目に合っていたわけじゃないんだろう。少し迂闊だったかなと心配になり始めていたので、ホッとする。
 

「で、肝心の結果は?他クラスの振り分けはわかったのか?」

 
 言われてみると確かに、ずっと突っ立って感動していただけで私自身は何もわかっていない。
 フェレスの方をチラッと見ると、しゃがんだ体制で何かを黙々と紙に書いていた。自信が無いので、とりあえずセラスに「多分アレかも」と指を刺す。
 上から手元を覗くと、どんどん他クラスの生徒の名前が競技順に書かれている。という事は、占いは成功したのだろう。
 
 が何故かフェレスは一度だけ手を止め、数秒間を空けてから書いてあった名前を一人分消して書き直していた。それ以外は全て淀みなく書き込んでいたのもあって、妙だなと少し気になってしまう。
 

「……出来たよ。はい」
「ありがとう!めちゃくちゃ助かる」
「少し、オマケしといた」
「オマケ?」
「ん、オマケ。今後もどーぞ、ご贔屓に」
 

 そう言ってフェレスは本格的に辺りの片付けを始めた。入れ替わりに他の皆んなが、完成した振り分け表を覗きに来る。
 

「わぁ、なんか隙の無い布陣だ。馬鹿ムカつく」
「ノイ様はリレーか。てっきりもっと派手に魔法を使える競技かと思ってた」
「私どれに出よっかな~サンダーバードだし、やっぱ飛ぶ系かな~」
「人数が少ない競技ほど、特化した魔法が得意な奴が多いわね」
「……」
「無い……無い!ああ~良かった」
「無いって、何が?」
「えっやぁ、何にも!?」

 
 一人だけ、安心した様子のヴァン。少しだけ離れて見ると、そんなヴァンの姿をフェレスが横目でじっと見つめている。
 
 
 そういえば、フェレスが書き直した生徒の名前は確か……
 

 
『Aクラス ナナビー・ララサイト』

 
 
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