眷属少女のブーケット

チアガールは君に決めた!


「そんじゃ改めて説明しとくぜ——俺の十八番『ガチャ・ラッダ(無機物・召喚)』は、必要な道具の部品だけを召喚して組み立てる魔法だ。組み立てに必要な時間は道具の規模によっから、ビルとか馬鹿でかいもん出せって指示する時は注意しろよ」
「ああ〜最初に会った時にも教えてくれたよね。でも改めて考えるとなんで出来上がった物じゃなくて部品なの?」
「それはね、召喚魔法で消費する魔力は召喚する物体が大きければ大きいほどかかるからよ。ビータスくんのやり方なら組み立てる時の魔力消費込みでも、実は出来上がった物を召喚するより魔力の効率が良いのよ〜」
「へぇ!なるほど」

 シャラールの説明を、そっくりそのままプロフ帳にあるビータスのページに書き加える。
 召喚魔法はまだ授業で習っていない部分だけれど、2人の様子を見る限り魔人族ならこれくらいの知識はあって当然のことなんだろう。

「情けねー話だが俺は生まれた頃から魔力量が少ねぇし、鍛えても伸びにくい体質なんだよ。ただ大抵の道具は一度バラして組み立てたことがあっから、そこら辺の奴よか色んなもんを出せる自身はあるぜ」
「ほうほう。確かに構造を知ってるのと知らないとじゃ、違いがありそう……よっしゃ、じゃあいっぺん見せてもらっても良い?」

 空き地の一角を指差すと、ビータスは待ってましたと言わんばかりに片手を突き出し、呪文を叫んだ。

『ガチャ・ラッダ!ジャンプ台!!』

 それに合わせ、ビータスが両手の指にしているゴツい指輪が輝きだす。
 私が指差した先に、雷に似た音と共に眩い光が現れた。
 すると光の中からネジやボルトや木材が飛び出し、光が消える頃にはそこにジャンプ台が出来上がっていた。

 あっっという間の完成に、興奮から両手の平を擦り合わせる。

「こ れ は 面白いことが出来るやも……いゃあ、素敵な魔法ですね〜」
「へっ、当ったりめーよ!一応両手が塞がってても使えっから、本番は俺の騎馬を楽しみにしとけ」
「わかった!楽しみ!」

 完成したジャンプ台に近付いてみる。見たところ飛び箱の時に使う、普通のジャンプ台のようだが……学院の物と違い、ベニヤ板の部分に黄色い稲妻とボルトの穴に『C』の文字が描かれているロゴがあった。

「凄いイカしたロゴだけど、このジャンプ台ってどっかの有名なメーカーのやつ?」
「良いところに気づいたな!何を隠そうこのジャンプ台、ネジの一つからぜーんぶ俺んちの工場で作ってるやつなんだぜ!」
「工場?」
「テスちゃんCM見たことない?ほら、ふっふふっふふ〜ふふふ〜ふふふ〜♪っていうの」
「CMつってもだいぶローカルなやつだぞ。ここら辺じゃ流れてねーよ」

『馬車に列車にビルカッパ〜♪我らカルヴァリンっカルヴァリンっ工場〜♪大体なぁんでもつーくれますっ♪』

 明るい合唱曲が、ダンっとピアノの音で締められているおかげで妙に頭に残りやすい。

 曲が流れてきた右方向を伺うとラジャイが私達の方へ顔だけ向けて、タブレット片手にサムズアップしていた。
 どうやら曲を流してくれたらしい。
 感謝の意味を込めてこちらもサムズアップを返せば、ラジャイはニヤリと笑ってランタンから火柱を上げ大絶叫しているトキヨシに視線を戻した。
 他の棒倒しメンバーもそんなトキヨシを囲み、座って眺めている。
 ヴァンは怖そうに両手で顔を覆いながら。
 カズラは何かの絵を描きながら。
 ジンジャーとマイオなんて、お腹を抱えて笑っている。
 良かった、このメンバーはなかなか余裕がありそうだ。

「こりゃ負けてらんないね。早速ビータスの魔法を取り入れた戦法を——」
「ダーリーーン!聞いて聞いてーー!!」

 オヤっと呼ばれた方を向けば、今度はハニーがタブレットを抱えて走ってきた。
 興奮しているのか走って疲れたのか、とにかく息が荒い。
 遅れて来ることは事前に聞いていたから、そこまで慌てなくてもいいのだが——何かあったんだろうか。

「お疲れ。ちょい息整えなよ」
「ぜぇ、だ、大丈夫大丈夫!それよりも聞いて!今ちょっと困ってるの、ピンチ!」
「おいアミュレット、落ち着けって」
「慌てるよー!だって『応援合戦』の練習まだできてないんだから!」
「応援合戦」

 初めて聞く単語に思考が停止する。
 目を丸くしている私に、ハニーはえへんと胸を張った。

「この間、Aクラスの子達が話してるの聞いたんだよ『体育祭の応援合戦楽しみだねー』って。でもダーリンそんなこと一言も言ってなかったから、シャラールに聞いたの。そしたらやっぱり忘れてたから、アタシが応援合戦で何やるか考えといたのよっ」
「私からテスタちゃんに説明するって言ったんだけど……アミュレットったら、全然聞かなくて」

 そう言って、困ったようにシャラールは眉尻を下げた。
 衝撃でぼんやりとした頭のまま体操服のポケットをまさぐり、体育祭の内容について書かれた紙を取り出す。
 昼休み、の次にしっかりと応援合戦と書かれてあった。

 思わず「ほぉぉぉ」と息を吸って、その口のまま舌をベロベロと左右に素早く動かす。
 これは私が、何かやらかした時によくやる仕草だ。

「本当に、申し訳ない。いや、本当にありがとう!あああ危ない、危うく無策で応援合戦を……ああああ」
「あっヤダっ落ち着いて!サプライズしよって黙ってたアタシが悪いの!喜んでもらえると思ってたから」
「逆効果じゃねーか。んで、何やんだよ本番」
「チアダンスだよ!アタシの地元で有名なダンスなのっ☆」

 見て見てとハニーが差し出したタブレットを、ビータスとシャラールと並んで覗き込めば動画の再生が始まった。
 大きなステージの上に、元気よく入場するミニスカート姿の女性達。
 両手に持っているポンポンを振り、観客に見せる笑顔は非常に可愛らしい。音楽が始まった瞬間にその場でも空中でも、息を乱さず笑顔を崩さず回転する様は、まさに圧巻の一言に尽きる。

 ビータスの口から「スゲェ」と声が漏れた。

 見るのに夢中になって、自分の口がいつの間にか半開きになっているのに気付いたのは、動画が終わってからだった。 

 片手で胸を押さえながら、どこか得意げなハニーにタブレットを返す。

「す、ごいね。えっコレやるの?素人目だけど、かなり難易度高いよね」
「まっさかぁ!今見せたのは去年地元の大会で優勝したチームのダンスだよ。でもCクラスの子達は身体能力高い子多いから、結構派手に仕上げられるよ」
「ほーん、メンバーはどんな感じ?」
「えーっと、アタシと、シャラールと、ジンジャーと、ペルルと、セラスと、フェレスだよ。本当は男子も入れたかったんだけど、今声かけれてる子はみーんな恥ずかしがっちゃってぇ」

 言いながらビータスをチラッと見る。すると顔を真っ赤にしながら「馬っ鹿おっ前、出来っかよ!」と後ずさった。

「ダーリンはどう?やってくれる?」
「ううむ……でもさっき動画見た感じだと、なるべく身長は揃えた方が美しいよね。お誘いは嬉しいけど、やめとくよ」
「ええーっでもあと一人は絶対欲しいよ!」

 言われてみれば確かに、もうCクラスの女子で条件に合う子はいない。

(ミリガンなら身長的に合格だけれど、絶対に嫌だって言うだろうし……クレープス先生を、いや、先生を組み込むのはルール違反になるかも)

 いっそのこと、ギリギリ先生か先生じゃないのライン上にいるオズさんに女装して参加させるのも、と考えてからあることを思い出した。

「ハニー、ちょい待ってて。身長も身体能力もバリバリ条件に合いそうな子を思い出したから、今から声かけて来るわ」
「本当!?さっすがダーリン、頼りになるぅ」
「ハッハッハッ」

 軽く片手を上げて去ろうとすると、少し心配そうな顔をしたシャラールに「あんまり無理強いしないであげてね」と小さな声で言われた。
 私が誰に声をかけようとしているのか、察したんだろう。

「ま、それは向こう次第かな」

 ◇

 向かう先は、綱引きメンバーが練習しているスペースだ。
 早速、ヴィオレラ相手に綱を引いているフェレスとペルルの姿が見えてきた。

「もっと腰落とせーっ!そんなんじゃ岩一つ動かせないわよ!」
「ヴィオレラ、重い」
「また太ったがやなぁい?」

 ペルルの一言に、ヴィオレラが両眉を釣り上げて「ヌゥンっ」と片手で綱を引っ張る。それだけで二人共が、大空へ飛んでってしまった。
 あまりにも無慈悲な様子にちょっと笑ってしまう。
 そんな三人の練習を、寝ているスチュワートを背もたれがわりにして眺めているソワンの隣に腰を下ろした。

「お疲れ様です。どうお、練習ついて行けてる?」
「ついても何も、見てわかんない?今みたいに投げ飛ばされて、さっきやっと戻って来たばっかなんだけど」

 そう言って、ソワンは瓶から気怠げに水を一口飲んだ。
 かなり機嫌が悪いみたいだ。

「ワハハ、でも真面目に参加してくれてるだけでも本当ありがたいよ」
「そりゃどーも」
「で、お願いがあるんだけども」
「なに」
「応援合戦でやるチアダンスに参加してください」
「やだ」

 ピッッッッカピカなことで定評のある私の歯を見せる笑顔でお願いしたのに、断られてしまった。
 とはいえここまでは想定済みである。見てなさい。

「そこをなんとか、ソワンさん」
「やだってば。ていうかアミュレットに誘われた時に断った筈なんだけど」

「頼むよ〜ソワン〜」
「うるさい。しつこい」

「お願い、ソワネルちゃん」
「ブッ!?はっ?はあああっゲホッゲホッ」

 私の一言にソワンは、会話の合間に含んだ水を勢いよく吹き出した。
 実はソワネルちゃんのチャンネルを見るたびに「そうなんじゃないかな〜」と思っていたのだが、やはり当たっていたか。
 ソワンはアンデット種の中でも特殊な『画皮』という存在だ。絵を描いた人皮をかぶることにより、性別すら違う他人に変身することができるという。

 咳き込むソワンの背中を撫でる。少し治ってきたのか、涙目で私を睨みつけてきた。

「……なんでわかった。誰から聞いた」
「聞いたわけじゃないよ。たまたまおススメ欄に流れてきた動画が面白かったからよく見るようになったんだけど、見るたび見るたびソワネルちゃんって歩く姿とか味の好みがソワンに似てるな〜とは思っててね」
「普通にソワラー(※ソワネルチューブの視聴者のこと)かよ……ウケる。あ〜もおおおお!」
「まあまあ、そう落ち込まないで。別に脅してるわけじゃないんだよ。ただあの可愛いチアガールの衣装、ソワネルちゃんに似合うだろうな〜って思って」

 返事はない、頭をずっと抱えたままだ。


 暫く黙っていること恐らく三分弱。


 やっぱりちょい強引だったかなと思案し始めた先、ようやく顔を上げ一言呟いた。


「半端な衣装持ってきたらブッ殺す」

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