愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「どうぞよろしく」
彼の白衣の上では、相変わらずメタセコイアのシルエットが無邪気に踊っている。それとは対照的に、彼はにこりとも笑わない。淡々とした口調は、私への興味のなさを物語っているようだ。
だが、そのほうがいい。
〝結婚とは、夫婦が互いの利のためにおこなう【契約】である。妻は、いつ何時も夫のために尽くさなければならない。〟
――そう、これはただの契約なのだから。
そもそも、この世界に恋や愛なんて存在しない。あれは、ドラマや小説を盛り上げるために作られた、想像上の産物だ。
人を惑わせ、翻弄し、いかにも崇高なものとして定義された幻想。人々はそれに愛と名づけ、実体があると錯覚しているだけだ。そんなもの、現実のどこを探したってあるはずがないのに。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします、瑞樹さん」
私が頭を下げると、視界の端で彼の口角が小さく上がったような気がした。
彼は忙しい人らしい。私が頭を上げるとともに、瑞樹さんは素早く立ち上がった。
見送りをしなければと、慌てて私も立ち上がる。すると彼は、すれ違いざまに私だけに聞こえるくらいの声量で言った。
「俺が君と結婚するのは、俺が院長になるためだ」
瑞樹さんはそのまま私に一目もくれずに、迷いない足取りで扉へと向かう。しかし扉の前で、一度こちらを体ごと振り返った。
百八十センチほどあるだろう彼の広い背で、白衣の裾がふわりとひるがえる。その動きすらも、彼の野心を象徴しているようだ。
瑞樹さんは事務的な、けれど丁寧な所作で一礼する。私も深く頭を下げた。
これは、政略結婚だ。彼を次期院長にするために、彼に尽くす。
これから始まるのは、ただそれだけのことだ。
彼の白衣の上では、相変わらずメタセコイアのシルエットが無邪気に踊っている。それとは対照的に、彼はにこりとも笑わない。淡々とした口調は、私への興味のなさを物語っているようだ。
だが、そのほうがいい。
〝結婚とは、夫婦が互いの利のためにおこなう【契約】である。妻は、いつ何時も夫のために尽くさなければならない。〟
――そう、これはただの契約なのだから。
そもそも、この世界に恋や愛なんて存在しない。あれは、ドラマや小説を盛り上げるために作られた、想像上の産物だ。
人を惑わせ、翻弄し、いかにも崇高なものとして定義された幻想。人々はそれに愛と名づけ、実体があると錯覚しているだけだ。そんなもの、現実のどこを探したってあるはずがないのに。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします、瑞樹さん」
私が頭を下げると、視界の端で彼の口角が小さく上がったような気がした。
彼は忙しい人らしい。私が頭を上げるとともに、瑞樹さんは素早く立ち上がった。
見送りをしなければと、慌てて私も立ち上がる。すると彼は、すれ違いざまに私だけに聞こえるくらいの声量で言った。
「俺が君と結婚するのは、俺が院長になるためだ」
瑞樹さんはそのまま私に一目もくれずに、迷いない足取りで扉へと向かう。しかし扉の前で、一度こちらを体ごと振り返った。
百八十センチほどあるだろう彼の広い背で、白衣の裾がふわりとひるがえる。その動きすらも、彼の野心を象徴しているようだ。
瑞樹さんは事務的な、けれど丁寧な所作で一礼する。私も深く頭を下げた。
これは、政略結婚だ。彼を次期院長にするために、彼に尽くす。
これから始まるのは、ただそれだけのことだ。