『塵を抱き、塵を払う』― 業とともに生きた半世紀 ―
第五章 仲間の死と、夢の終焉
二十代後半の彼は、まるで二つの世界を行き来する旅人のようだった。
音楽の世界と現実の世界。

二十代前半のように、同時には生きることが出来なかった。
夢と現実の狭間で、彼はいつも揺れていた。

そんなある日、一本の電話が鳴った。
「……あいつ、事故で亡くなった」
長距離仲間の死、信じられなかった。
昨日まで笑っていた仲間が、もうこの世にいない。
高速道路のどこかで、突然命の灯火が消えた。
トラックの運転席に座ると、やけに空しく感じた。
深夜の高速道路を走るたびに無線で、 「おい、居眠りするなよ」 と笑っていた声が、耳の奥で響いた。
彼は思った。

「俺は、何がしたいのか」

夢を追い続ける自分。
家庭を守れなかった自分。
そして、仲間を失った現実。
そのすべてが、胸に重くのしかかった。
やがて、彼は静かにギターを置いた。

三十二歳。

バンド活動の終わりだった。
メンバーは形を変え、オリジナルメンバーは彼だけだった。
気がつけばバンドのすべてを背負っていた。

ステージに立つ夢は、確かに形になった。
雑誌にも載った。
テレビにも出た。
作品も残した。
だが、夢の先にあるはずだった“未来”は、仲間の死とともに、どこか遥か遠くへ消えていった。

「もう、終わりにしよう」

その言葉は、誰に向けたものでもなく、自分自身に向けた静かな宣告だった。

だが、夢を手放した彼の胸には、新しい空白が生まれた。
その空白を埋めるように、彼は次の道を探し始める。

そして―― その道は、彼を思いもよらない世界へと導いていく。
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