名前を呼ぶまで、春は来ない
第13話 噂の再燃
文化祭から一週間が経った。
クラスの空気は、日に日に重くなっていった。
表面上は何も起きていない。誰かが私に直接何かを言うわけでもない。でも、確実に距離を置かれていた。
グループワークの時、私だけ誘われない。
休み時間、私の席の周りだけ人がいない。
廊下ですれ違う時、会話が途切れる。
中学の時と、同じだった。
火曜日の放課後、写真部の部室へ行った。
ここだけが、私の居場所だった。
「桜井さん、お疲れ様」
三島先輩が、明るく声をかけてくれた。
「文化祭、すごくよかったよね。今年は来場者数も過去最高だったって」
「そうなんですか」
「うん。特に桜井さんの写真、評判よくて。来年の写真部の勧誘に使わせてもらおうかなって思ってる」
その言葉が、嬉しかった。
少なくともここでは、私は必要とされている。
パソコンに向かって、新しい写真の整理をしていると、朝倉くんが隣に座った。
「最近、撮影行ってる?」
「……あんまり」
「そっか。じゃあ、今度一緒に行こうか」
「うん」
朝倉くんとの会話は、いつも自然だった。
無理に話さなくてもいい。沈黙も怖くない。
ただ、隣にいてくれるだけで、安心できた。
水曜日の朝、下駄箱で靴を履き替えていると、中に紙が入っていた。
折りたたまれた紙。
嫌な予感がした。
でも、開かずにはいられなかった。
紙を広げると、そこには一行だけ書かれていた。
『友達裏切るやつが、また友達作ろうとしてるの笑える』
心臓が、止まりそうになった。
手が震えた。
周りを見回すと、何人かの生徒がこちらを見ていた。
誰が書いたのか。
誰が、下駄箱に入れたのか。
わからない。
でも、確実に誰かが私を標的にしている。
教室に行く気力がなくなった。
でも、行かないわけにはいかない。
深呼吸をして、階段を上る。
教室のドアを開けると、数人の視線が私に向いた。
知ってる、という目。
下駄箱の紙のことを、知ってる。
席に座ると、隣の朝倉くんが心配そうな顔で見てきた。
「大丈夫?」
「……うん」
「顔、真っ青だよ」
「大丈夫」
そう言ったけれど、全然大丈夫じゃなかった。
胸が苦しくて、息ができなかった。
授業中、黒板の字が頭に入ってこなかった。
ただ、ノートにペンを走らせるだけ。
周りの視線が、ずっと気になった。
後ろから、小さな笑い声が聞こえた。
私のことを、笑っているんじゃないか。
そう思うと、涙が出そうになった。
昼休み、また屋上へ逃げた。
フェンスに寄りかかって、今日の朝のことを思い返す。
『友達裏切るやつが、また友達作ろうとしてるの笑える』
その言葉が、頭から離れない。
私は、また友達を作ろうとしているのか。
朝倉くんは、友達なのか。
写真部のみんなは、友達なのか。
わからない。
でも、もし友達だとしたら──また裏切ってしまうのではないか。
「桜井さん」
朝倉くんの声がした。
また、探しに来てくれた。
「……ごめん。また心配かけて」
「謝らないで。どうしたの? 今日、すごく元気ないよ」
私は、少し迷ってから、下駄箱の紙のことを話した。
朝倉くんは、眉をひそめた。
「誰が書いたの?」
「わからない」
「ひどいな」
彼は、フェンスの隣に来て座った。
「桜井さん、気にしないで」
「……でも」
「そんなこと書く人の方が、おかしいから」
朝倉くんの言葉は、優しかった。
でも、気にしないなんて、無理だった。
あの言葉は、私の一番痛いところを突いてきた。
「朝倉くん」
「ん?」
「もしかして、私と一緒にいることで、朝倉くんも何か言われてる?」
朝倉くんは、少し考えてから答えた。
「……少し」
「やっぱり」
「でも、気にしてないから」
「でも——」
「桜井さんが気にする必要ないよ。俺が勝手に一緒にいたいだけだから」
その夜、家に帰ってから母に相談した。
珍しいことだった。
母に、学校のことを話すなんて。
「お母さん」
リビングで、母と向かい合って座る。
「どうしたの?」
「学校で、ちょっと嫌なことがあって」
母は、真剣な顔で聞いてくれた。
私は、全部話した。
文化祭のレジのこと。下駄箱の紙のこと。クラスで孤立していること。
母は、黙って聞いていた。
「それは、辛かったわね」
「うん」
「澪は、どうしたいの?」
どうしたい?
私は、考えた。
「……わからない。でも、学校に行きたくない」
母は、少し考えてから言った。
「無理に行かなくてもいいのよ」
「え?」
「辛い時は、休んでもいい。でも──」
母は、私の目を見た。
「逃げ続けることは、できないわ」
逃げ続けることは、できない。
その言葉が、胸に刺さった。
「いつかは、向き合わないといけない。でも、今じゃなくてもいい」
翌日、木曜日。
私は、学校を休んだ。
朝、母に「休みたい」と言うと、母は何も聞かずに頷いてくれた。
「わかった。ゆっくり休んで」
母が仕事に出かけた後、私は一人で部屋にいた。
ベッドに横になって、天井を見上げる。
学校を休んだのは、文化祭前以来だった。
スマホに、朝倉くんから着信があった。
出るべきか迷ったけれど、出た。
「もしもし」
「桜井さん、今日休んでるって聞いた。大丈夫?」
「……うん。ちょっと疲れて」
「そっか。無理しないでね」
朝倉くんの声は、いつも通り優しかった。
「桜井さん、写真部のこと、気にしないで。みんな、桜井さんのこと待ってるから」
「……ありがとう」
電話を切った後、涙が溢れてきた。
なんで、こんなに優しくしてくれるんだろう。
私なんかに。
友達を裏切った私なんかに。
朝倉くんは、知らないのだ。
私が、どれだけ卑怯な人間なのか。
美咲を見捨てた、最低な人間なのか。
午後、スマホに写真部のグループLINEから通知が来た。
三島先輩からのメッセージ。
『桜井さん、体調大丈夫? 無理しないでね。元気になったら、また撮影行こうね』
水野くんも、伊藤さんも、心配のメッセージを送ってくれた。
みんな、優しかった。
でも、その優しさが、逆に苦しかった。
私は、そんな優しさを受け取る資格があるのか。
金曜日も、学校を休んだ。
二日連続で休むのは、初めてだった。
母は、何も言わなかった。
ただ、「大丈夫?」と聞くだけ。
「……うん」
「無理しないでね」
母の優しさも、辛かった。
午後、朝倉くんがまた電話をかけてきた。
「桜井さん、明日土曜日だけど、撮影行かない?」
「……行けない」
「そっか。じゃあ、無理しなくていいよ」
少し沈黙があった。
「桜井さん、写真撮ってる?」
「撮ってない」
「そっか」
また沈黙。
「桜井さん、写真、諦めないでね」
写真を諦めない。
でも、私には写真を撮る資格があるのか。
自分の心を写真にする資格が。
わからなかった。
土曜日、朝。
私は、久しぶりにカメラを手に取った。
三島先輩から借りたカメラ。
もう一ヶ月以上、触っていなかった。
電源を入れて、液晶画面を見る。
最後に撮った写真が映った。
朝倉くんの横顔。
川を見つめる彼。
あの時は、楽しかった。
朝倉くんと一緒に撮影して、お互いの過去を話して。
二人で、前を向こうとしていた。
でも、今は──。
また、過去に引き戻されている。
美咲を見捨てた過去に。
窓の外を見ると、雨が降っていた。
梅雨の長雨。
空は灰色で、重たい雲が垂れ込めている。
カメラを構えて、窓から外を撮った。
雨に濡れた街。
灰色の空。
誰もいない道。
シャッターを切った。
液晶画面を見る。
そこには、寂しい景色があった。
色のない世界。
光のない世界。
これが、今の私の心なのかもしれない。
スマホに、朝倉くんからメッセージが来た。
『今日は雨だから、撮影中止にしたよ。桜井さん、元気になったら教えてね』
私は、返信しなかった。
何を返せばいいのか、わからなかった。
日曜日、雨は止んでいた。
でも、空はまだ曇っていた。
私は、一人で近所を歩いた。
カメラを首にかけて、何か撮れるものを探す。
でも、何を撮ればいいのかわからなかった。
ファインダーを覗いても、何も見えなかった。
公園のベンチに座って、ぼんやりと空を見上げる。
誰かが隣に座った。
振り向くと、朝倉くんがいた。
「……なんで?」
「桜井さん、外にいるって気がして」
「なんでわかるの?」
「なんとなく」
朝倉くんは、私の隣に座った。
しばらく、二人とも何も話さなかった。
ただ、曇り空を見上げていた。
「桜井さん」
朝倉くんが、口を開いた。
「俺、桜井さんがいなくなったら、寂しい」
「……え?」
「写真部も、学校も、桜井さんがいないと物足りない」
彼は、私を見た。
「だから、逃げないでほしい」
逃げないで。
その言葉が、胸に響いた。
でも、私は──。
「朝倉くん、私、もうわからない」
涙が、溢れてきた。
「私が、ここにいていいのかわからない。写真を撮っていいのかわからない。朝倉くんと一緒にいていいのかわからない」
「桜井さん──」
「私、美咲を見捨てたのに。また同じことするかもしれないのに」
朝倉くんは、何も言わなかった。
ただ、私の隣に座っていた。
そして、静かに言った。
「桜井さん、過去は変えられない。でも、未来は変えられる」
「……未来?」
「うん。今度は、見捨てなければいい。今度は、ちゃんと向き合えばいい」
彼は、真っ直ぐ私を見た。
「俺は、桜井さんを信じてる」
その言葉が、心に染みた。
信じてる。
朝倉くんは、私を信じてくれている。
裏切るかもしれない私を。
それでも、信じてくれている。
クラスの空気は、日に日に重くなっていった。
表面上は何も起きていない。誰かが私に直接何かを言うわけでもない。でも、確実に距離を置かれていた。
グループワークの時、私だけ誘われない。
休み時間、私の席の周りだけ人がいない。
廊下ですれ違う時、会話が途切れる。
中学の時と、同じだった。
火曜日の放課後、写真部の部室へ行った。
ここだけが、私の居場所だった。
「桜井さん、お疲れ様」
三島先輩が、明るく声をかけてくれた。
「文化祭、すごくよかったよね。今年は来場者数も過去最高だったって」
「そうなんですか」
「うん。特に桜井さんの写真、評判よくて。来年の写真部の勧誘に使わせてもらおうかなって思ってる」
その言葉が、嬉しかった。
少なくともここでは、私は必要とされている。
パソコンに向かって、新しい写真の整理をしていると、朝倉くんが隣に座った。
「最近、撮影行ってる?」
「……あんまり」
「そっか。じゃあ、今度一緒に行こうか」
「うん」
朝倉くんとの会話は、いつも自然だった。
無理に話さなくてもいい。沈黙も怖くない。
ただ、隣にいてくれるだけで、安心できた。
水曜日の朝、下駄箱で靴を履き替えていると、中に紙が入っていた。
折りたたまれた紙。
嫌な予感がした。
でも、開かずにはいられなかった。
紙を広げると、そこには一行だけ書かれていた。
『友達裏切るやつが、また友達作ろうとしてるの笑える』
心臓が、止まりそうになった。
手が震えた。
周りを見回すと、何人かの生徒がこちらを見ていた。
誰が書いたのか。
誰が、下駄箱に入れたのか。
わからない。
でも、確実に誰かが私を標的にしている。
教室に行く気力がなくなった。
でも、行かないわけにはいかない。
深呼吸をして、階段を上る。
教室のドアを開けると、数人の視線が私に向いた。
知ってる、という目。
下駄箱の紙のことを、知ってる。
席に座ると、隣の朝倉くんが心配そうな顔で見てきた。
「大丈夫?」
「……うん」
「顔、真っ青だよ」
「大丈夫」
そう言ったけれど、全然大丈夫じゃなかった。
胸が苦しくて、息ができなかった。
授業中、黒板の字が頭に入ってこなかった。
ただ、ノートにペンを走らせるだけ。
周りの視線が、ずっと気になった。
後ろから、小さな笑い声が聞こえた。
私のことを、笑っているんじゃないか。
そう思うと、涙が出そうになった。
昼休み、また屋上へ逃げた。
フェンスに寄りかかって、今日の朝のことを思い返す。
『友達裏切るやつが、また友達作ろうとしてるの笑える』
その言葉が、頭から離れない。
私は、また友達を作ろうとしているのか。
朝倉くんは、友達なのか。
写真部のみんなは、友達なのか。
わからない。
でも、もし友達だとしたら──また裏切ってしまうのではないか。
「桜井さん」
朝倉くんの声がした。
また、探しに来てくれた。
「……ごめん。また心配かけて」
「謝らないで。どうしたの? 今日、すごく元気ないよ」
私は、少し迷ってから、下駄箱の紙のことを話した。
朝倉くんは、眉をひそめた。
「誰が書いたの?」
「わからない」
「ひどいな」
彼は、フェンスの隣に来て座った。
「桜井さん、気にしないで」
「……でも」
「そんなこと書く人の方が、おかしいから」
朝倉くんの言葉は、優しかった。
でも、気にしないなんて、無理だった。
あの言葉は、私の一番痛いところを突いてきた。
「朝倉くん」
「ん?」
「もしかして、私と一緒にいることで、朝倉くんも何か言われてる?」
朝倉くんは、少し考えてから答えた。
「……少し」
「やっぱり」
「でも、気にしてないから」
「でも——」
「桜井さんが気にする必要ないよ。俺が勝手に一緒にいたいだけだから」
その夜、家に帰ってから母に相談した。
珍しいことだった。
母に、学校のことを話すなんて。
「お母さん」
リビングで、母と向かい合って座る。
「どうしたの?」
「学校で、ちょっと嫌なことがあって」
母は、真剣な顔で聞いてくれた。
私は、全部話した。
文化祭のレジのこと。下駄箱の紙のこと。クラスで孤立していること。
母は、黙って聞いていた。
「それは、辛かったわね」
「うん」
「澪は、どうしたいの?」
どうしたい?
私は、考えた。
「……わからない。でも、学校に行きたくない」
母は、少し考えてから言った。
「無理に行かなくてもいいのよ」
「え?」
「辛い時は、休んでもいい。でも──」
母は、私の目を見た。
「逃げ続けることは、できないわ」
逃げ続けることは、できない。
その言葉が、胸に刺さった。
「いつかは、向き合わないといけない。でも、今じゃなくてもいい」
翌日、木曜日。
私は、学校を休んだ。
朝、母に「休みたい」と言うと、母は何も聞かずに頷いてくれた。
「わかった。ゆっくり休んで」
母が仕事に出かけた後、私は一人で部屋にいた。
ベッドに横になって、天井を見上げる。
学校を休んだのは、文化祭前以来だった。
スマホに、朝倉くんから着信があった。
出るべきか迷ったけれど、出た。
「もしもし」
「桜井さん、今日休んでるって聞いた。大丈夫?」
「……うん。ちょっと疲れて」
「そっか。無理しないでね」
朝倉くんの声は、いつも通り優しかった。
「桜井さん、写真部のこと、気にしないで。みんな、桜井さんのこと待ってるから」
「……ありがとう」
電話を切った後、涙が溢れてきた。
なんで、こんなに優しくしてくれるんだろう。
私なんかに。
友達を裏切った私なんかに。
朝倉くんは、知らないのだ。
私が、どれだけ卑怯な人間なのか。
美咲を見捨てた、最低な人間なのか。
午後、スマホに写真部のグループLINEから通知が来た。
三島先輩からのメッセージ。
『桜井さん、体調大丈夫? 無理しないでね。元気になったら、また撮影行こうね』
水野くんも、伊藤さんも、心配のメッセージを送ってくれた。
みんな、優しかった。
でも、その優しさが、逆に苦しかった。
私は、そんな優しさを受け取る資格があるのか。
金曜日も、学校を休んだ。
二日連続で休むのは、初めてだった。
母は、何も言わなかった。
ただ、「大丈夫?」と聞くだけ。
「……うん」
「無理しないでね」
母の優しさも、辛かった。
午後、朝倉くんがまた電話をかけてきた。
「桜井さん、明日土曜日だけど、撮影行かない?」
「……行けない」
「そっか。じゃあ、無理しなくていいよ」
少し沈黙があった。
「桜井さん、写真撮ってる?」
「撮ってない」
「そっか」
また沈黙。
「桜井さん、写真、諦めないでね」
写真を諦めない。
でも、私には写真を撮る資格があるのか。
自分の心を写真にする資格が。
わからなかった。
土曜日、朝。
私は、久しぶりにカメラを手に取った。
三島先輩から借りたカメラ。
もう一ヶ月以上、触っていなかった。
電源を入れて、液晶画面を見る。
最後に撮った写真が映った。
朝倉くんの横顔。
川を見つめる彼。
あの時は、楽しかった。
朝倉くんと一緒に撮影して、お互いの過去を話して。
二人で、前を向こうとしていた。
でも、今は──。
また、過去に引き戻されている。
美咲を見捨てた過去に。
窓の外を見ると、雨が降っていた。
梅雨の長雨。
空は灰色で、重たい雲が垂れ込めている。
カメラを構えて、窓から外を撮った。
雨に濡れた街。
灰色の空。
誰もいない道。
シャッターを切った。
液晶画面を見る。
そこには、寂しい景色があった。
色のない世界。
光のない世界。
これが、今の私の心なのかもしれない。
スマホに、朝倉くんからメッセージが来た。
『今日は雨だから、撮影中止にしたよ。桜井さん、元気になったら教えてね』
私は、返信しなかった。
何を返せばいいのか、わからなかった。
日曜日、雨は止んでいた。
でも、空はまだ曇っていた。
私は、一人で近所を歩いた。
カメラを首にかけて、何か撮れるものを探す。
でも、何を撮ればいいのかわからなかった。
ファインダーを覗いても、何も見えなかった。
公園のベンチに座って、ぼんやりと空を見上げる。
誰かが隣に座った。
振り向くと、朝倉くんがいた。
「……なんで?」
「桜井さん、外にいるって気がして」
「なんでわかるの?」
「なんとなく」
朝倉くんは、私の隣に座った。
しばらく、二人とも何も話さなかった。
ただ、曇り空を見上げていた。
「桜井さん」
朝倉くんが、口を開いた。
「俺、桜井さんがいなくなったら、寂しい」
「……え?」
「写真部も、学校も、桜井さんがいないと物足りない」
彼は、私を見た。
「だから、逃げないでほしい」
逃げないで。
その言葉が、胸に響いた。
でも、私は──。
「朝倉くん、私、もうわからない」
涙が、溢れてきた。
「私が、ここにいていいのかわからない。写真を撮っていいのかわからない。朝倉くんと一緒にいていいのかわからない」
「桜井さん──」
「私、美咲を見捨てたのに。また同じことするかもしれないのに」
朝倉くんは、何も言わなかった。
ただ、私の隣に座っていた。
そして、静かに言った。
「桜井さん、過去は変えられない。でも、未来は変えられる」
「……未来?」
「うん。今度は、見捨てなければいい。今度は、ちゃんと向き合えばいい」
彼は、真っ直ぐ私を見た。
「俺は、桜井さんを信じてる」
その言葉が、心に染みた。
信じてる。
朝倉くんは、私を信じてくれている。
裏切るかもしれない私を。
それでも、信じてくれている。