名前を呼ぶまで、春は来ない

第20話(最終話) 返事をする春

 七月に入り、梅雨が明けた。
 夏の日差しが、校舎を照らしている。窓から入る風は暑いけれど、どこか心地よかった。
 写真部に復帰してから、二週間が経った。
 火曜日と金曜日の放課後、私はまた部室へ通うようになった。三島先輩も、水野くんも、伊藤さんも、温かく迎えてくれた。誰も、私が辞めたことを責めなかった。
 ただ、「おかえり」と言ってくれた。



 今日は金曜日。部活の日。
 教室で荷物をまとめていると、恒一が声をかけてきた。
「澪、今日も部活?」
「うん」
「じゃあ、終わったら一緒に帰ろう」
「……恒一、最近毎日一緒に帰ってない?」
「ダメ?」
 彼は、少しいたずらっぽく笑った。



 私は、少し考えてから答えた。
「ダメじゃない。嬉しい」
 恒一の顔が、明るくなった。
「じゃあ、部室で待ってる」
「うん」



 恒一と付き合い始めてから、クラスでの視線が変わった。
 以前のような冷たい視線ではなく、ただの好奇心。
 『桜井さんと朝倉くん、付き合ってるんだって』
 そんな噂が、クラス中に広まっていた。
 でも、もう怖くなかった。
 恒一がそばにいてくれるから。



 部室へ行くと、三島先輩が大きな紙を広げていた。
「あ、澪ちゃん来た!」
 先輩は、最近私のことを『澪ちゃん』と呼ぶようになった。
「今日はね、夏の撮影計画を立てようと思って」
「夏の撮影?」
「そう。夏休みに、みんなで合宿行かない?」



 合宿。
 みんなで泊まりがけで撮影に行く。
 以前の私なら、絶対に断っていた。
 でも、今は──。
「行きます」
 自然に、そう答えていた。



 三島先輩は、嬉しそうに笑った。
「よかった! じゃあ、場所どうしようか。海? 山?」
 水野くんが「山がいい」と言い、伊藤さんが「海も捨てがたい」と言った。
 みんなで話し合って、結局「海辺の山」という、両方を楽しめる場所に決まった。



 恒一が、部室に入ってきた。
「お疲れ様。盛り上がってるね」
「恒一! 夏の合宿、決まったよ」
 三島先輩が、計画を説明した。
「いいね。楽しみだ」
 恒一は、私を見た。
「澪も行くんでしょ?」
「うん」



 活動が終わって、恒一と二人で学校を出た。
 夕暮れの空が、オレンジ色に染まっている。
「澪、最近楽しそうだね」
 恒一が、歩きながら言った。
「……そう?」
「うん。笑顔が増えた」
 彼は、私の手を取った。
「嬉しいよ」



 私も、恒一の手を握り返した。
「恒一のおかげ」
「俺だけじゃないよ。澪が頑張ったから」
「……ありがとう」
 二人で、桜並木の道を歩く。
 桜の花は、もうとっくに散ってしまった。
 でも、青々とした葉が、夏の訪れを告げていた。



「ねえ、恒一」
「ん?」
「私、変われたかな」
 恒一は、立ち止まって私を見た。
「変われたよ」
「本当?」
「うん。春の頃の澪とは、全然違う」



 春の頃。
 写真部に仮入部した頃。
 まだ、誰とも深く関われなかった頃。
 名前を呼ぶことが、怖かった頃。
「あの頃の澪は、いつも一人だった」
 恒一は、私の頬に手を添えた。
「でも、今の澪は違う。笑顔で人と話せるようになった」



「恒一」
「ん?」
「私ね、まだ時々怖くなる」
「何が?」
「また、誰かを傷つけるんじゃないかって」
 正直に言った。
「美咲のこと、完全には忘れられてない」



 恒一は、優しく笑った。
「忘れなくていいんだよ」
「え?」
「忘れる必要なんてない。その記憶があるから、今の澪がいる」
 彼の言葉が、胸に響いた。
「大切なのは、過去に縛られないこと。過去を受け入れて、前を向くこと」



 過去を受け入れて、前を向く。
 母も、美咲も、恒一も、みんな同じことを言ってくれた。
 私は、少しずつそれができるようになってきた気がする。



 家に帰ると、母がリビングにいた。
「おかえり。今日も恒一くんと一緒だった?」
「……うん」
 少し照れくさい。
「いい関係ね。お母さん、安心したわ」
 母は、嬉しそうに笑った。



「お母さん」
「ん?」
「夏休み、写真部で合宿行ってもいい?」
 母の目が、少し驚いたように開いた。
「合宿?」
「うん。一泊二日で」
「……行っておいで」
 母は、すぐに答えた。
「澪が楽しいなら、お母さんは応援するわ」



 その夜、部屋でカメラを手に取った。
 最近、また毎日のように写真を撮っている。
 でも、春の頃とは撮るものが変わってきた。
 人のいない風景ばかりじゃなく、人の笑顔も撮るようになった。
 恒一の笑顔。三島先輩の笑顔。母の笑顔。



 液晶画面で、写真を見返す。
 どの写真にも、温かさがあった。
 寂しさだけじゃない。
 光がある。
 希望がある。



 週末、恒一と二人で撮影に出かけた。
 行き先は、川沿いの公園。春に二人で来た場所だった。
「ここ、久しぶりだね」
 恒一が、言った。
「うん。あの時、恒一が兄さんのこと話してくれた場所」
「覚えてたんだ」
「忘れられないよ」



 公園のベンチに座って、川を眺める。
 水面が、夏の日差しを反射してキラキラと輝いていた。
「澪、写真撮らないの?」
「……今日は、恒一を撮りたい」
「俺?」
「うん。いい?」
「もちろん」



 恒一は、川を見つめた。
 私は、カメラを構えて、彼の横顔を撮った。
 春の時とは、違う表情。
 あの時は、過去を背負った重い表情だった。
 でも、今は──明るい。
 未来を見つめている顔。



 シャッターを切った。
 液晶画面を見せると、恒一が笑った。
「いい顔してるね、俺」
「うん。幸せそう」
「幸せだよ。澪がいるから」
 その言葉に、胸が温かくなった。



「恒一」
「ん?」
「私も、幸せ」
 恒一は、私の手を取った。
「これからも、ずっと一緒にいようね」
「うん」
 私は、恒一の手を握り返した。



 その時、公園に家族連れが来た。
 小さな女の子が、母親に向かって手を振っている。
「お母さん! 見て見て!」
 女の子は、花を摘んでいた。
「綺麗ね」
 母親が、優しく笑った。



 私は、その光景を見ながら思った。
 名前を呼ぶこと。
 それは、誰かの人生に踏み込むこと。
 でも、それは同時に──。
 誰かとつながること。



 私は、美咲の名前を呼べなかった。
 恒一は、兄さんの名前を呼べなかった。
 でも、今──。
 私たちは、お互いの名前を呼び合っている。
 「澪」と「恒一」。
 その名前を呼ぶたびに、つながりが深くなっていく。



 七月の終わり、夏休みに入った。
 写真部の合宿は、八月の最初の週末に決まった。
 それまでの間、私は毎日のように写真を撮り続けた。
 夏の空。蝉の声。入道雲。夕立の後の虹。
 全てが、新鮮に見えた。



 ある日、一人で近所を歩いていると、小学校の前を通りかかった。
 夏休み中だから、校庭には誰もいない。
 でも、プールからは子供たちの声が聞こえてくる。
 楽しそうな笑い声。



 私も、昔はあんなふうに笑っていたのだろうか。
 美咲と一緒に、何も怖がらずに。
 そんなことを考えながら、カメラを構えた。
 校庭の遊具。誰もいないブランコ。
 でも、そこには確かに──子供たちの気配があった。



 シャッターを切った瞬間、ふと気づいた。
 この写真は、寂しくない。
 人がいなくても、寂しくない。
 なぜなら、そこには「痕跡」があるから。
 誰かが確かにそこにいた証拠が。



 私の心も、同じだった。
 一人でいても、もう寂しくない。
 なぜなら、私には大切な人たちがいるから。
 恒一、母、三島先輩、写真部のみんな、そして美咲。
 みんなが、私の心に痕跡を残してくれた。



 合宿当日。
 駅前に集合すると、みんなが既に揃っていた。
「澪ちゃん、おはよう!」
 三島先輩が、元気よく手を振った。
「おはようございます」
「さあ、行くわよ!」



 電車に揺られること二時間。
 海辺の山に着いた。
 青い海と、緑の山が同時に見える、絶景の場所だった。
「すごい──」
 思わず、声が出た。
「でしょ? ここなら、色んな写真が撮れるわよ」
 三島先輩が、嬉しそうに言った。



 一日目は、みんなで海辺を撮影した。
 波打ち際、砂浜に残された足跡、貝殻、カモメ。
 私は、恒一と一緒に撮影して回った。
「澪、あっち見て」
 恒一が指差した先には、夕日が沈みかけていた。
 海と空の境界線が、オレンジ色に染まっている。



 二人で、その景色を撮った。
 同じ景色なのに、恒一と私の写真は違っていた。
 恒一の写真は、ダイナミックで明るい。
 私の写真は、静かで優しい。
「やっぱり、人によって違うんだね」
 恒一が、笑った。
「うん。それがいいんだと思う」



 夜、宿舎でみんなで写真を見せ合った。
 それぞれが撮った、それぞれの夏。
 どの写真も素敵だった。
「明日は、山に行くわよ」
 三島先輩が、計画を説明した。
「頂上からの景色、最高らしいから」



 二日目、朝早くから山を登った。
 登山道は少し険しかったけれど、みんなで励まし合いながら進んだ。
 途中、恒一が私の手を取ってくれた。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう」
 彼の手は、温かかった。



 頂上に着くと、そこには絶景が広がっていた。
 眼下に広がる海。遠くに見える街。青い空。
 全てが、美しかった。
「すごい──」
 みんなが、同時に声を上げた。



 私は、カメラを構えた。
 でも、今回は風景だけじゃなかった。
 一緒に登ってきたみんなの姿も、フレームに入れた。
 笑顔で景色を見つめる三島先輩。
 カメラを構える水野くん。
 風に髪をなびかせる伊藤さん。
 そして──私の隣で、同じ景色を見つめる恒一。



 シャッターを切った。
 液晶画面を見ると、そこには──。
 みんなの笑顔があった。
 私の大切な人たちが、一枚の写真に収まっていた。



 この写真が、私の新しい「境界線」なのかもしれない。
 孤独と、つながりの境界線。
 過去と、未来の境界線。
 そして──冬と、春の境界線。



 合宿から帰って、私は一枚の写真を選んだ。
 頂上で撮った、みんなの写真。
 それを、自分の部屋に飾った。
 この写真を見るたびに、思い出せる。
 私は、もう一人じゃない。



 九月に入り、新学期が始まった。
 夏休みの間に、少しだけ日焼けした。
 教室に入ると、何人かが声をかけてくれた。
「桜井さん、夏休みどうだった?」
「楽しかったよ」
 自然に、そう答えられた。



 クラスの空気も、変わっていた。
 以前のような冷たさはなかった。
 普通に、クラスメイトとして接してくれる。
 それが、嬉しかった。



 放課後、写真部の部室へ行くと、三島先輩が待っていた。
「澪ちゃん、聞いて! 文化祭、また写真展やることになったの」
「本当ですか?」
「うん。去年好評だったから、今年もって」
 三島先輩は、嬉しそうに言った。
「テーマ、何にしようか?」



 みんなで話し合って、今年のテーマは「つながり」に決まった。
 人と人のつながり。
 過去と未来のつながり。
 自分と世界のつながり。



「澪、今年はどんな写真撮る?」
 恒一が、聞いてきた。
「……笑顔を撮りたい」
「笑顔?」
「うん。大切な人たちの笑顔」
 私は、恒一を見た。
「恒一の笑顔も、撮らせてね」



 文化祭まで、あと二ヶ月。
 私は、毎日のように写真を撮り続けた。
 恒一の笑顔。母の笑顔。三島先輩の笑顔。
 そして──自分の笑顔も。



 ある日、恒一に頼んで、私の写真を撮ってもらった。
 公園のベンチに座って、カメラに向かって笑う。
 以前は、自分の写真を撮られるのが嫌だった。
 でも、今は──平気だった。



 恒一が撮った私の写真を見ると、そこには──。
 笑顔の私がいた。
 本当に、心から笑っている私が。
「この写真、いいね」
 恒一が、言った。
「澪の一番いい顔だよ」



 文化祭当日。
 写真展は、去年と同じ多目的室で開催された。
 壁には、部員たちの写真が並んでいる。
 その中に、私の写真もあった。



 恒一の笑顔。母の笑顔。三島先輩の笑顔。
 そして──私自身の笑顔。
 全部で十枚。
 全てが、「つながり」をテーマにした写真だった。



 開場すると、たくさんの来場者が訪れた。
 私の写真を見て、「温かい写真ですね」と言ってくれる人がいた。
 「去年の写真と、雰囲気が違いますね」と言う人もいた。
 そう、去年とは違う。
 去年の私は、まだ孤独だった。
 でも、今年の私は──つながっている。



 午後、母が会場に来た。
「澪、今年の写真もすごくいいわね」
「ありがとう、お母さん」
 母は、私の笑顔の写真を見て、少し涙ぐんだ。
「澪、本当に変わったわね」
「……うん」
「お母さん、嬉しいわ」



 その時、恒一が会場に入ってきた。
「澪、お疲れ様」
「恒一、クラスの出し物は?」
「終わった。だから、ここに来た」
 彼は、私の写真を見て、笑った。
「やっぱり、澪の写真は最高だ」



 夕方、文化祭が終わった。
 片付けを手伝いながら、この一年を振り返った。
 春に写真部に入って、夏に恋をして、秋に文化祭を迎えた。
 そして——冬が来る。
 また、季節は巡る。



 片付けが終わって、恒一と二人で校舎の屋上へ行った。
 夕焼けの空が、オレンジ色に染まっている。
「澪」
 恒一が、私の名前を呼んだ。
「ん?」
「この一年、楽しかった」
「私も」



 恒一は、私の手を取った。
「これからも、ずっと一緒にいようね」
「うん」
 私は、彼の手を握り返した。
「恒一、ありがとう」
「何が?」
「私の名前を、呼んでくれて」



 恒一は、優しく笑った。
「これからも、何度でも呼ぶよ」
 彼は、真っ直ぐ私を見た。
「澪」
 その声は、温かかった。
 私を認めてくれる声。
 私の存在を肯定してくれる声。



「恒一」
 私も、彼の名前を呼んだ。
 もう、怖くなかった。
 誰かの名前を呼ぶことが。
 誰かの人生に踏み込むことが。



 夕焼けの空を、二人で眺める。
 オレンジと紫の境界線が、少しずつ変わっていく。
 昼から夜へ。
 明から暗へ。
 でも、その境界線は美しかった。



 私は、カメラを取り出した。
 この景色を、撮りたい。
 恒一と一緒に見ている、この夕焼けを。
 ファインダーを覗くと、恒一の横顔が映った。
「恒一、そのまま動かないで」
「わかった」



 シャッターを切った。
 液晶画面を見ると、そこには──。
 夕焼けを見つめる恒一の横顔があった。
 そして、その隣には──私の影も写っていた。



 二人の影が、夕焼けの中で重なっている。
 境界線の上で、手を繋いでいる。
 これが、私たちの物語。
 孤独から、つながりへ。
 冬から、春へ。



 名前を呼ぶまで、春は来なかった。
 でも、名前を呼んだ時──。
 私の春が、始まった。



 恒一が、もう一度私の名前を呼んだ。
「澪」
 その声に、私は答えた。
「……何?」
 これが、返事をするということ。
 呼ばれた名前に、ちゃんと応えること。
 自分の人生に、返事をすること。



 恒一は、笑顔で言った。
「大好きだよ」
 その言葉に、胸が温かくなった。
「私も。大好き、恒一」



 夕焼けが、少しずつ暗くなっていく。
 でも、私の心は明るかった。
 なぜなら、もう一人じゃないから。
 大切な人たちがいるから。
 名前を呼び合える人がいるから。



 屋上を出て、二人で校舎を歩く。
 廊下の窓から、夜空が見えた。
 一番星が、輝いている。
「ねえ、恒一」
「ん?」
「これからも、私の名前を呼んでね」
「もちろん」
 恒一は、私の手を握った。
「何度でも、何度でも呼ぶよ」



 校門を出ると、風が吹いてきた。
 秋の風。
 少し冷たいけれど、心地よかった。



 桜並木の道を歩く。
 春に花を咲かせたこの木々も、今は葉を落とし始めている。
 でも、来年の春には──。
 また新しい花を咲かせる。



 私も、同じだった。
 一度枯れかけた心が、また芽吹き始めた。
 恒一という光があったから。
 母の愛があったから。
 美咲の許しがあったから。
 写真部という居場所があったから。



 全てが、私を春へと導いてくれた。



 家に帰ると、母が待っていた。
「おかえり、澪」
「ただいま、お母さん」
 母は、優しく笑った。
「文化祭、楽しかった?」
「うん。すごく」



 リビングで、母と二人でお茶を飲む。
「澪、最近本当に変わったわね」
「そうかな」
「うん。笑顔が増えた」
 母は、私の手を取った。
「お母さん、嬉しいわ」



 その夜、部屋で一人、今日の写真を見返した。
 恒一の横顔。夕焼けの空。重なった二人の影。
 どの写真にも、温かさがあった。



 そして、最後に──。
 春に撮った写真を見た。
 雨に濡れた窓ガラス越しの街。
 夕暮れの空と街灯。
 誰もいない公園のベンチと、忘れ物の傘。



 あの頃の私は、孤独だった。
 でも、その孤独があったから、今の私がいる。
 過去を否定する必要はない。
 過去があるから、今がある。



 カメラを手に取って、窓の外を見る。
 夜空に、月が浮かんでいた。
 満月。明るく、優しい光。
 その月を、撮った。



 液晶画面を見ると──。
 明るい月が、夜を照らしていた。
 闇の中にも、光がある。
 それが、今の私の心だった。



 スマホに、恒一からメッセージが来た。
 『今日はお疲れ様、澪。また明日ね』
 私は、返信した。
 『おやすみ、恒一。また明日』



 また明日。
 その言葉が、嬉しい。
 明日も、恒一に会える。
 明日も、写真を撮れる。
 明日も、私は生きている。



 ベッドに横になって、天井を見上げる。
 白い天井。
 でも、もう寂しくない。



 名前を呼ばれること。
 それは、自分の存在を認められること。
 名前を呼ぶこと。
 それは、誰かとつながること。



 私は、恒一の名前を呼んだ。
 恒一は、私の名前を呼んでくれた。
 それだけで、私は──。
 生きていていいんだと、思えるようになった。



 目を閉じる。
 明日が、楽しみだ。
 明日は、どんな一日になるだろう。
 誰と会うだろう。
 どんな写真を撮るだろう。



 全てが、楽しみだった。
 なぜなら、私には──。
 名前を呼び合える人がいるから。



 春は、名前を呼ばれたところから始まった。
 そして、これからも──。
 私の春は、続いていく。
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