第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「パーティ用の装いなのはね」
仮面を指先でくるりと回す。
「“招待された側”として入るため」
「……囮、ですか」
「交渉役、観察役、場合によっては証人」
淡々とした声。
「私は、無力な貴族令嬢のふりをする」
その覚悟に、胸が締めつけられる。
「……条件があります」
ユウリは低く告げた。
「何?」
「必ず、私とセナの視界に入ること。単独行動はしない
宝石には、絶対に触れないことです。今回はあくまで下見です」
一瞬の沈黙。
そして、お嬢様は頷いた。
「約束する」
真剣な眼差しで。
「だから――あなたも約束して」
「?」
「一人で全部背負わないこと」
夜風が吹き抜け、ドレスの裾と外套が揺れる。
セナが短く言った。
「時間です」
ユウリは仮面をつけ直し、二人を見る。
「……行きましょう。馬車は裏門に用意してあります」
低く、確かな声で。
3人は同時に歩き出した。
――今夜、蝶は羽化する。
だがそれが、自由の象徴か、終焉の合図かは、まだ誰も知らない。