第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「まさか、宝石にそんな細工が施されていたとは……」

ルーペを返しながら、ユウリが静かに息を吐く。

「だから、宝石は2つしか用意できなかった。正面からは、私とセナ。」

そう告げると、
「では、私は主催者側から回りましょう」

即答だった。

「それで大丈夫?」

念のため確認すると、ユウリは穏やかに頷く。

「ええ。
 元からそのつもりで準備していましたので問題ありません。
 ただし――」

視線が私に向く。

「お嬢様は、決してセナから離れないでください」

「わかってる」

短く答える。

ユウリはそれで納得したように、今度はセナを見る。

「セナ。お嬢様を、お願いします」

「はい」

セナは迷いなく、力強く返事をした。

「それでセナと私はパートナーとして参加するとして、偽名を使いましょう。
私のことは…そうね。今日は月がよく見える夜だからルナと呼んで。セナはどうする?」


そう言ってセナに視線を向ける、少し悩む素振りをする。


「…お嬢様にお任せします」

「じゃあ シオンね!」

「はい…なぜその名前ですか?」

「昔好きだった小説の主人公。ただヒロイン守るために片腕なくなっちゃうんだけどね」

「とても物騒ですね…」

「確かに」

苦笑いをするセナとユウリ。

「任せるっていったでしょ?じゃあシオン!今から恋人同士ということでよろしくね。
ユウリも会場の中では極力接触しないようにしましょう」

「はい」

「わかりました」


セナとユウリが返事をしたところで馬車が静かに止まり、御者の合図が夜気に溶けた。
3人はそれぞれ仮面に手をとった。
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