第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「あの金額で落札した人物……只者ではなさそうですね」
セナが、2階席にいた人物を見つめる。
すでにカーテンは閉められ、落札者の姿は見えなくなっていた。
本当なら正体を探りたいところだが、深追いは危険だ。
今夜はひとまず様子見とした方がいいだろう。
それに――裏では、きっとユウリが調べているはずだ。
「そうね……ちょっと化粧室に行ってくるわ」
「わかりました。すぐ近くにおりますので」
私は足早に化粧室へ滑り込む。
誰もいないことを確かめ、仮面を外した。
「うぇっ……はぁ……」
個室に入り、吐き気をこらえる。
胃液しか出てこないのに、喉が焼けるように痛んだ。
さすが貴族用オークション会場だけあって、
化粧室まで豪奢な造りだ。
個室内には水道も備え付けられており、
そこで口元を洗う。
――黒いダイヤ。
――よみがえる、断片的な記憶。
誰かが言い争っている。
男と、女の人。
「暴走」
「魔女の雫」
……違う。
これは、誰かの話じゃない。
私の、記憶?
わからない。
でも記憶の中の女性の名前を男が叫んでいた…
アイリスと。
鏡に映る私は、真っ青な顔をしていた。
あの女性はだれ?
でも…私は知っている。
「……だめ」
ここで考えても、答えは出ない。
今は、この《蝶の会》について調べることが先だ。
そう心に決め、仮面を付け直す。
セナが、2階席にいた人物を見つめる。
すでにカーテンは閉められ、落札者の姿は見えなくなっていた。
本当なら正体を探りたいところだが、深追いは危険だ。
今夜はひとまず様子見とした方がいいだろう。
それに――裏では、きっとユウリが調べているはずだ。
「そうね……ちょっと化粧室に行ってくるわ」
「わかりました。すぐ近くにおりますので」
私は足早に化粧室へ滑り込む。
誰もいないことを確かめ、仮面を外した。
「うぇっ……はぁ……」
個室に入り、吐き気をこらえる。
胃液しか出てこないのに、喉が焼けるように痛んだ。
さすが貴族用オークション会場だけあって、
化粧室まで豪奢な造りだ。
個室内には水道も備え付けられており、
そこで口元を洗う。
――黒いダイヤ。
――よみがえる、断片的な記憶。
誰かが言い争っている。
男と、女の人。
「暴走」
「魔女の雫」
……違う。
これは、誰かの話じゃない。
私の、記憶?
わからない。
でも記憶の中の女性の名前を男が叫んでいた…
アイリスと。
鏡に映る私は、真っ青な顔をしていた。
あの女性はだれ?
でも…私は知っている。
「……だめ」
ここで考えても、答えは出ない。
今は、この《蝶の会》について調べることが先だ。
そう心に決め、仮面を付け直す。