第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「ねぇルナ。宝石に、魅せられたのは弱い人間だ。
それを、君は全部救いたい…そういうこと?」

名を呼ばれ、背筋が伸びる。


「違います…私はそこまで優しい人間ではありません。
全てを救いたいなんて思っていません。

ただ自分の大切な人を…私を大切だと思ってくれている人達を悪意のある宝石と方法を使って陥れようとしたことが許せない」

力強く答えたつもりだ。
この言葉に嘘偽りはない。
だけど本音は、もっと単純だ。

気に入らない。

奪う側が笑い、
守ろうとした人間が傷つく世界を。

綺麗な正義じゃなくていい。
誰かに誇れなくてもいい。

私は、私の大切なものを踏みにじる存在を、
決して見逃さない。

サーフェスは私をじっと見つめる。

「君は、“大切な人を救うため”なら——
自分がどうなるかを、どこまで許容できる?」

その問いは、優しさではなかった。
現実を突きつけるためのものだ。

「蝶の会はね、ルナ。
誰かを救うために入る場所じゃない」

静かに告げる。

「入った時点で、必ず何かを壊す。
たとえ目的が正しくても、代償は等しく払わされる」

少し間を置いて、続けた。

「それでも、君は来た」

サーフェスは、初めて仮面の奥で微かに笑った。

「……いいだろう。
君は、自分の嘘を自覚している」

テーブルに手を伸ばし、指で軽く叩く。

「ひとつ、教えてあげよう。
宝石事件、いや魔女の雫事件は—偶然じゃない」

空気が、張り詰める。

「あれは序章だ…」

彼は、はっきりと言った。

「そして、その中心に
蝶の会が存在しない事件は、一つもない」

逃げ場のない真実。

「ここから先を聞くかどうかは、君が決めなさい。ルナ」

扉の方へ、視線を向ける。

「今なら、まだ“戻れる”」

そして、こちらを見る。
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