第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「まあ、とりあえず見てなって」

ロベルト先輩の視線がセナ副団長とお嬢様に向き、俺も自然とそちらに体の姿勢を向ける。
他の団員たちも2人の様子を見守っている。
誰も止めようとしないところを見ると、どうやらいつものことのようだ。

手合わせが始まる。
まずはお嬢様が正面から向かっていく。

木剣と木剣がぶつかる音が、訓練場に鳴り響く。
初めはゆるやかに打ち合っていたが、徐々にお互いのスピードが上がっていく。

「す、すごい……」
思わず口から漏れてしまった。

「すごいよな。あんな華奢な身体で、激しく打ち合えるんだからな」
感心したように話すロベルト先輩。

しばらく打ち合いは続いていたが、ティアナお嬢様が押されているのがわかる。
あの激しく鋭い打ち合いを続ければ、体力も持たないだろう。
俺ですら、セナ副団長との打ち合いはこんなに長くは続かない。

そろそろ決着か――先に動いたセナ副団長。
これは回避は難しい。勝負ありかと思ったその瞬間、ティアナお嬢様が瞬く間に懐に入り込む。

「えっ!?どうなったんだ?」

顎先を狙う絶妙な剣さばき。
まさか、セナ副団長に勝つのか――と思ったのも束の間、セナ副団長は巧みに交わし、お嬢様の木剣を弾いた。

あっという間の出来事で、何が起きたのか頭が追いつかない。

「あの、あれ……どういうことですか?」
状況をうまく飲み込めず、俺は声を震わせる。

「うまいな、お嬢様。
わざとセナ副団長に技を決めさせようと誘い込み、良いところをつこうとしたんだろう。
だが、セナ副団長がそれを見事に交わした、というわけだ」
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