ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

第61話

 ベッドの上。
 僕の腕の中で、幸せそうに眠っている美絵を見つめる。

 元旦に地元で彼女の両親に会ってからというもの、僕の心境には大きな変化があった。


『仲良くしてもらって、本当にありがとう』

『あの子を、よろしく頼むね』


 彼女の面影がある二人から、その言葉をかけられた時の重みを思い出すたび、背筋がピンと伸びるような思いがする。

 美絵とは、一時的なお付き合いなどではなく、ずっと一緒にいたい。
 ずっと笑顔にさせられる男になりたい。
 ご両親が大切に育ててきた美絵という一人の女性を、それに負けないくらいの愛情で守っていきたい。
 そう思うと、どれほどバイトが忙しくても、授業の課題やテストが山積みでも、不思議とやる気が底から湧き上がってきた。

 けれど、自分を律して『正しい男』であろうとするあまり、目の前の彼女の寂しさを置き去りにしてしまっては本末転倒だ。

 最近、美絵がやきもちを焼くことが増えた。


『祥ちゃん……今日カフェテリアで、同じクラスの子に、腕触られてたでしょ』

『えっ、腕? 全然気づかなかった……』

『もう……祥ちゃん、ガード甘いよう……』

『ご、ごめん……』


 美絵以外の女性の言動には、どうも疎い僕だ。
 それが仇となり、最近はよく彼女を膨れっ面にさせてしまっている。

 それが、僕たちの関係が深まり、本音を見せてくれるようになった証拠なら嬉しいけれど。
 僕に至らぬところがあって、不安にさせているのだとしたら――。

 だからこそ、最近よく発動される『帰りたくない攻撃』にも、つい甘くなってしまう。

 今日もそうだ。
 駄々をこねる彼女を優しくたしなめるつもりが、結局はこうして抱きしめてしまっている。

 ただ、美絵がワガママを言うのは、決まって、二人とも翌日の朝に授業やバイトがない日だけ。
 彼女なりに二人の生活を気にかけてくれているのだろう。
 そんなところもいじらしくて、つい受け入れてしまうのだ。

 本音を言えば――僕だって、ずっと一緒にいたい。
 この腕の中に閉じ込めて、じゃれ合って、笑顔を独り占めしていたい。

 けれど、もしその欲求に完全に身を任せてしまったら。
 きっと、目の前の美絵だけに夢中になって、大学も、バイトも、将来のことも、全部どうでもよくなってしまうだろう。
 そして彼女にも、同じように僕だけを見ていることを求めてしまうかもしれない。

 そのくらい、僕は美絵のことが……自分でも怖くなるほど好きなのだ。

 必死にけじめをつけようと律しているのは、二人の生活を壊さないためだけじゃない。
 自分自身が彼女への愛に呑み込まれて、制御不能になってしまうのが怖いからでもある。

 柔らかい髪に触れる。
 今はまだ、この幸福に溺れるわけにはいかない。
 いつか、胸を張って美絵のすべてを預かれる男になりたい。

 彼女を起こさないようにそっと、だけど強く抱き寄せながら、心の中で再度誓うのだった。
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