アースシールド♾️

銀髪の候補生


 開けた場所だったのはいいものの、あたりにあったものは隕石の衝撃で破壊されている。
 粉々になった石の塊も散らばっていた。
 今回の小型は、計11体かーー記憶の通り、12体以下だな。

ーーズドーン!

 すると次の瞬間。
 また赤く光る隕石が、突き刺さった。
 あの方向は……商店街のはずれか。
 月と新たな地点に向かう。

ーータッタッタッタッタッ。

 少し走ると、横向きになった飛行車が目に入る。

「待て。飛行車が」

「あ!?」

 近くに爆風で落ちたのだろう、飛行車の中に人がいることを察知する。
 中にいるのは親子か?

「月。先に行ってくれ」

「ラジャ! あとでな」

 車のドアをこじ開け、子どもを抱き上げた。
 続いて、母親らしき人を引っ張り出す。

「大丈夫ですか? あの建物なら安全です。あそこまで走れますか?」

 よかった。
 ふたりともケガはなさそうだ。

「ありがとうございます、息子と走ります」

 小学校低学年くらいだろうか。
 不安そうな男の子の頭を撫でる。
 
「もう大丈夫だ」

「綺麗な髪のお姉さん、ありがとう……!」

 綺麗な髪……母譲りの栗色の髪のことか。

ーータッ、タッ、タッ。

 避難する親子を見送ったそのときだった。

「待て。まだ人がいる」

 澄んだ、強い声。
 振り返ると、瓦礫の向こうに――銀色のジャケットを着た人がいた。
 候補生か。
 大人びていて落ち着いた印象の男。
 長い銀髪にすうっと通る鼻筋。
 迷いのない目。

(人物照合:未登録)

「俺が行く。お前は避難誘導を」

「ラジャ。誘導後、援護します」

 名前も知らないのに、自然と役割を分けることができるものだな。
 逃げ遅れた人々を建物へ誘導する。

(年齢分布、歩行速度、転倒リスク、出口までの距離)

「皆さん、大丈夫です。あの建物へ避難してください」

 親子や老人など、怯える人々を誘導する。

(1、2、3、4……9、全員一致)

 避難完了、問題なし。

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

 9人間を避難させ、彼の元に戻る。

「戻りました」

「ああ」

「状況は?」

「小型だが、擬態する」

 擬態か……隕石になりすましているのか。
 擬態は確か……。
 戦闘ログを呼び起こす。

(ケースNo.562、分類:小型・擬態型、弱点:光刺激)

「ヤツは光で倒せます」

 驚いた顔をした彼。
 隕石の亀裂から、何かが動いた。

「来る」

「合わせます」

 ふたり同時に、銃を構える。

ーーバンッ!

(残弾数16、射角:12度、反動補正:不要)

 光弾が炸裂し、影が後ずさる。

「もう一度……今だ」

ーーカチャッ。バンッ!

(発射間隔:0.3秒、同期誤差:ゼロ)

 連携。
 初めてなのに、不思議なくらい噛み合うな。

 ーーシュルルルル。

(消失現象、霧化、完全消滅まで1.8秒)

 数秒後、影は霧のように消えた。

「……やったか」

 彼がほっと息をつく。
 この人、反応速度が異様に早かった。
 瞬時の対応にも慣れている……強い。

「…お前、強いな」

「え?」

 目が合うーー。
 一瞬の沈黙だった。

「しかも、なかなかの器量良しだな」

 器量良し…?
 美人ってことか?

ーーピコン。

 ふたりの腕についた端末が同時に鳴った。
 ハッとして端末を確認する。

【アースシールド♾️正規隊員試験 開始24分前】

(現在時刻、移動距離、所要時間、最短ルート)

 戦いに夢中で忘れていた。
 急がないと試験に間に合わない。

「私は、これで。さようなら」

 彼に向かってお辞儀する。
 試験に遅れたら失格になってしまう。
 走って間に合うか……ギリギリだな。
 家のジェット機を呼ぶしかないか。
 携帯を取り出して、かけ慣れた番号を入力する。

ーープルル、プルルルル。

<はい、お嬢様>
<ばあや、ジェット機を一台頼む>
<かしこまりました、3分後に到着いたします>
<わかった、ありがとう>

ーーガチャ。

 電話を切って周囲を見渡す。
 建物や木々は倒れ、隕石の威力を物語っていた。
 待ち時間のうちに、歩行者が通りやすいよう、散らばった瓦礫を片付けるか。

「糸ー! 大丈夫だったか?」

 月は瓦礫を片付けながら、この辺一体を確認していた。

「ああ。試験に間に合わないと困るから、家のジェット機を呼んだ」

「おい……また、ばあやを使ったのかよ。老体に鞭を打たせるなって言ってんのに」

「ばあやは電話に出て乗ってくるだけで、ジェット機は運転手のジェイムズが……」

「そういうこと言ってんじゃねーんだよ! ほんと鈍いっーか、なんつーか」

「月、羨ましいのか? 大丈夫だ。月も乗せていくつもりだった」

「羨ましいとかじゃねーわ! まあ、試験に遅れるわけにはいかねーけど。この試験でお互い候補生卒業だな」

 掛け合いの後、小さな瓦礫を持ちながら月がニコッと笑う。

「受かればの話だ」

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

 5年前、最年少の7歳でアースシールド♾️候補生になった。
 お祖父様との会話を思い出す。

『お祖父様、アースシールド♾️の隊員になれるのは何歳ですか?』

『12歳だ。試験に落ちることもあるからな。20歳まで受けられることになっているぞ』

『候補生には?』

『体力、精神力、脚力、武力など、いくつかの項目をクリアすれば、何歳でも候補生の試験が受けられたはずだが』

『候補生は何ができるのですか?』

『町で事故や災害が起きたときに、人々を助けることができる。特殊スーツや宇宙生命体だけに効く銃や剣も与えられるぞ』

 お祖父様に教えてもらったその年ーー7歳で候補生の試験に合格した。
 負けず嫌いの月は、私の背中を追いかけて8歳で候補生になった。
 私と月の夢は、小さい時からずっと人々を守り、地球を守ることだ。
 そのためには、今日から始まる試験に合格し、正規の隊員にならねばなるまい。

ーーブンブンブンブンブンブン。

「お嬢様〜!」

 ばあやの声とともに、ジェット機が頭上に到着した。
 4枚乗りの小さなジェット機だ。
 風に揺れて降りてくるハシゴを見ながら、ふと名前を聞く暇もなかったなと、先ほどの彼がいた方向に視線を送る。

「どうした? 糸? いくぞ」

「うん」

 もう、その人の姿はどこにもなかった。
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