第2部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
隣に並んで座るトワを見ながら、
私はふと、彼との出会いを思い出していた。

――随分、馴染んできたな。

そう感じられるほどには、彼はこの場所に溶け込んでいる。

◇
2年前。

トワは、まだ8歳だった。

父・アドルフの遠縁にあたる親戚の息子。
両親を不慮の事故で亡くし、身寄りを失った子ども。

そう説明されたけれど――
彼は泣いていなかった。

怯えも、混乱もなく、
ただ静かに、周囲を観察するような視線だけを持っていた。

父は冷淡で、
母も兄のマルクも、彼に特別な関心を示さなかった。

まるで最初から“いないもの”として扱うように。

だから私は、声をかけた。

「私、ティアナ・ラピスラズリよ。よろしくね。
今日からお姉さんになるから、何でも頼って」

そう言った私を、トワはじっと見つめた。

感情の読めない瞳で。

「……いえ。お構いなく」

拒絶というより、
必要性を感じていないような声音だった。

それから何度話しかけても、
返ってくる言葉は短く、淡々としていた。

悲しんでいるようにも、
怒っているようにも見えない。

――まるで、人の感情というものを知らないみたいだった。

それでも。

それでも私は、放っておくことができなかった。

あの子がここに「いていい」のだと、
誰かが伝えなければならない気がしたから。
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