第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

戦闘

作戦当日。

私は、ルイに仕立ててもらった長袖のロングドレスに身を包んでいた。


「動きにくくはありませんか?」

背後から、アリスの声がする。

彼女は慣れた手つきで私の髪をまとめていく。
いつも通り、丁寧で、綺麗に。

「大丈夫。完璧よ」

最後に髪留めを留めると、アリスは一歩下がった。

「……お嬢様。どうか、お気をつけて」

私は思わずアリスに抱きついた。
一瞬驚いたあと、彼女はそっと腕を回してくれる。

「アリスもありがとうね。一緒に来てくれて…」

「もちろんです。裏方ですが少しぐらいお役に立ちます」

笑顔で頷くと、アリスは少しだけ目を伏せて、微笑んだ。

◇

研究施設の前に到着した。

暗闇が外を包んでいる。
まるで、この場所そのものが拒絶しているかのようだ。

私は、そっとディランの手を取った。

「……怖いかい?」

「いえ」

一瞬、言葉を探す。

「少し、震えている気もするけど、…」

ディランが、心配そうにこちらを見る。

「これは、武者震いです」

「それは頼もしい」

彼は小さく笑い、私の手を強く握り返した。

「必ず、ガイルの悪を白日の下に晒そう」

「もちろんです」

覚悟を胸に、私たちは正面入口へと歩き出す。

名目上は、研究所の見学。

門をくぐった途端、職員たちの間にざわめきが走った。

明らかに、慌てている。

だが――

この国の第一王子を、無下に扱えるはずもない。

表向きは取り繕った笑顔のまま、
私たちはあっさりと中へ通された。

「……案外、すんなり通してくれるんですね」

小声でそう言うと、ディランは視線を前に向けたまま答える。

「それはそうさ」

そして、低く囁く。

「相手の目的は、君だ」

胸の奥が、ひやりと冷える。

「だから――」

ディランは、私の手を離さなかった。

「絶対に、私から離れないで」

「……はい」

頷いた瞬間。

研究所の奥、見えない場所で――
何かが、静かにこちらを見据えた気がした
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