第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「君に冷たくあたるマルク。
親しくもない令嬢を
魔女の雫を使って湖に引きずり込んだのもぼく。」

「……興味があったんだ」

「君は、どうでもいい人間さえ救うのかって」

小さく笑う。

「そしたらさ。
一瞬の迷いも、躊躇いもなく飛び込むんだもん」

「正直、驚いたよ」

「自分が器だと知って絶望しても、
憎しみに沈んでも、
誰かを呪ってもおかしくなかったのに」

トワは、はっきりと言った。

「ティアナ様は――」

「最後まで、人でいようとした」

喉を締めた魔力。
恐怖。
死を確信した瞬間。

それでも前を向いた、あの一瞬。

「……それが、想定外だった」

声が、わずかに低くなる。

「だから今、困ってる」

困ったように、微笑んだ。

「覚醒していないのに、
もう“魔女”より、ずっと厄介だ」

「君は――」

「人のままで、世界を変えてしまう」

静寂が落ちた。

誰も、すぐには言葉を発せなかった。

ディランが、私を庇うように一歩前へ出る。

「……それでも」

低く、揺るがぬ声。

「彼女は、誰の実験材料でもない」

トワは目を細め――

ほんの一瞬だけ。

羨むような、寂しそうな目をした。
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