第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「――でも」

「アイリスが、力を使ったの」

「共鳴……ですか?」

「ええ」

マリアンヌは、はっきりと頷いた。

「見た瞬間に分かったわ。
 これは、使ってはいけない力だと。
 禁忌のものだと」

それでも。

「彼女はマルクを助けた」

「自分を犠牲にしてでもね」

胸が、締めつけられる。

「見殺しにすることも、できたはずよ」

そうすれば――

「跡取りのいない、
 子も産めない私ではなく、
 アイリスが正妻になる道もあった」

マリアンヌは、真っ直ぐに私を見つめた。

「それでも彼女は、そうしなかった」

「だから私は、決めたの」

「――あなたを守る、と」

初めて聞かされる真実。

そして、
知らぬ間に守られていたという事実。

胸の奥が、熱を帯びていく。

言葉にしようとすると、
喉が震えて何も出てこなかった。

マリアンヌは、ふっと微笑む。

「……アイリスは、優しい人だった」

午後の光が、カップの縁できらめいた。

その輝きの中で、
私はようやく気づいた。

ずっと嫌われていると思っていた。
でもこの人はずっと――
私を守り続けていたのだと。
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