第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
ティアナside

セナ…いやだ。

溢れる血。冷たくなる手。
死なせたりなんてしない。


――共鳴。

魔力を流そうとした瞬間、
拒むような衝撃が走る。

冷たい壁に弾かれる感覚。
死にかけの身体が、外部を拒絶している。

「……っ、戻らないで……!」

自分の魔力を引き裂くように、無理やり繋ぎ止める。

深く。
もっと深く。

すると――流れ込んできた。

私との出会い。
騎士を志した理由。
血のにじむ努力。
剣を握れなくなるほどの痛み。

……私への想い。

そして、かつて付き合っていた彼女の記憶。

(…それは、ちょっと傷つくんだけど)

思わず、心の中で呟く。

けれど同時に、
こんなにも長い間、私を想い続けていたことが突き刺さった。

「……絶対、死なせない」

その想いに、共鳴が応えた。

魔力の流れが絡み合い、
途切れかけていた循環が、再び動き出す。

裂けた肉体が、ゆっくりと縫い合わされていく。

止血。
修復。
再生。

温かい魔力が、確かに流れ込む。

――トクン。

一度だけ、心臓が跳ねた。

――トクン。

次は、確かな拍動。

信じられず、息を呑む。

冷えていた指先に、
わずかな温もりが戻ってきた。

「……ほら」

私は、セナの手を強く握る。

「まだ、終わってない」

涙が落ちたのは、
そのあとだった。
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