言えない。言わない。

分からないまま

朝は、いつもより少しだけ明るかった。

玲央は、なんとなく隣を見る。

天音家のカーテンが、開いていた。

珍しい。まだ早い時間だ。

月乃は、いつもなら起きていない。

今日は違った。

白いカーテンが、風にゆれている。

月乃は窓枠に腕をのせて、外を見ている。

空は、きれいに晴れている。


でも。

月乃の顔は、晴れていなかった。

声はない。

ただ、じっと空を見ている。

その頬を、ひとすじの涙が落ちた。

玲央は、動けなかった。

「つきの」

呼ぼうとして、辞めた。

なんて言えばいいのか、わからなかった。


月乃は、涙をぬぐわない。

ただ、空を見ている。

その顔は、

悲しいのか、

寂しいのか、

怒っているのか、

分からなかった。


呼んだら、壊れそうな気がした。

触れたら、消えそうな気がした。

そのまま、時間だけが過ぎた。


やがて、天音家の窓が閉まった。

月乃の姿も消えた。

しばらくして、車庫から車が出ていった。


何も聞けなかった。

どこへ行くのかも。

どうしたのかも。


晴れている。

空は、あの写真と同じ色。

でも今日は、

なぜか、少し遠く見えた。
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