青春×6

ちょうどいい距離

映画に行った日から、
久保田と話すことが少し増えた。

きっかけは、ほんの一言。

『今日の英語の宿題わかる?』

そんな、なんでもないLINE。

でも、それに返信して、
また返ってきて、
気づけば会話は続いていた。

『ここ、こうじゃない?』

『あーなるほど、助かる』

『でしょ』

軽いやりとり。

なのに、不思議と続く。

その日から、ほぼ毎日LINEするようになった。

特別な話はしない。

『眠い』
『同じ』
『明日テストじゃん』
『終わった』

そんな、どうでもいい会話。

でも、その“どうでもよさ”が、
ちょうどよかった。

ある日。

『おはよ』

朝、通知が来る。

久保田から。

少しだけ驚いて、
でも自然に、

『おはよ』

って返した。

それからは、

朝は「おはよう」、
夜は「おやすみ」。

それが、当たり前になっていった。

——楽だな、って思う。

久保田と話してると、
変に考えなくていい。

ちゃんと返さなきゃ、とか
おもしろいこと言わなきゃ、とか

そういうの、いらない。

ただ、そのままでいられる。

“居心地がいい”

それが一番しっくりくる言葉だった。

好き、とかじゃない。

ドキドキもしない。

でも、

こういう人がいるのって、いいなって思う。

その日、教室で。

「最近、久保田とよく話してるね。」

かおるが、後ろから言う。

「まあね。」

「楽しそう。」

「うん、楽だし。」

そう答えてから、

ふと前を見る。

加戸が、普通に誰かと話して笑っていた。

変わらない、いつもの感じ。

それを見て、

なんとなく安心する。

——あ、そっか。

私は、

あの空気が好きなんだ。

無理してない感じも、
誰にでも同じように接するところも。

久保田といるときの“楽”とは違う、

ちょっとだけ、特別な“気になる”。

その違いに、

まだ名前はついていなかった。
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