隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
 ダリオスの言葉に、セイラはフフッと嬉しそうに笑って、ダリオスの背中に手を回す。

「心配事は無くなりましたか?そんなに心配しなくても、私はダリオス様のことしか見えていません」
「……ああ、ありがとう。俺もセイラのことしか見えてない」

 そう言って、ダリオスはぎゅっとセイラを抱きしめる。それから、体を離してセイラの額に優しくキスを落とした。

「寝る間にすまなかった。今日はゆっくり休んで」

 そう言って、優しくセイラの髪を撫でると、ダリオスはベッドから立ち上がる。だが、ダリオスの袖がクイッと引かれてダリオスの足が止まった。ダリオスが驚いて振り返ると、セイラも自分で自分のしたことに驚いた顔をしている。

(っ!私ったら、思わず袖を引っ張ってしまったわ!)

「す、すみません!」
「……そんなことしたら帰りにくくなってしまうよ。今日はセイラにはゆっくり休んでもらいたいんだから。それに、俺も今日はこの後まだ仕事が残っているんだ」

 ダリオスが困ったように微笑むと、セイラは顔を真っ赤にして小さく頷いて手を離した。そんなセイラを、ダリオスは愛おしそうに見つめる。

「おやすみ、セイラ。愛してるよ」





 執務室に戻ったダリオスは、椅子に座ってフーッと息を大きく吐いた。

(セイラはガイズのことを本当に騎士として尊敬しているだけだ。それに、男として好ましく思ったのは俺だけだとも言ってくれた。あんなこと言われたら、あの場で押し倒してめちゃくちゃに愛してしまいたくなる。理性でなんとか堪えた自分を褒めてやりたい)

 机に肘をついて両手を組み、額をつけてまたフーッと大きく息を吐く。思い出しただけで体が熱くなるのを感じてダリオスは小さく苦笑した。

(あの様子だと、セイラは全くガイズ殿の気持ちに気がついていないんだろうな。ガイズ殿も徹底して気持ちを隠し切っているんだろう)

 ガイズの様子から、少なからずガイズはセイラを聖女としてだけではない気持ちを持っているはずだ。だが、セイラはそれに気づいていない。セイラにとって、ガイズは信頼できる騎士団長というだけなのだ。

(これからも、ずっと気づかないでいてくれて構わない。気づいたところで、セイラは気持ちに応えられないことに少なからず傷つき、悲しむだろう。もしかしたら、相手の気持ちに気づかなかった自分自身を責めるかもかもしれない。セイラは優しいからな)

 だが、そんなことはガイズも望んでいないはずだ。だからこそ、セイラには気持ちが気づかれないように徹底して忠誠心の高い頼れる騎士団長として在り続けているのだ。その姿勢は男としても騎士としても褒め称えたいほどのものだ。どうか、そのままその姿勢を崩すことなく貫いてほしいとさえ思う。

(ガイズ殿には悪いが、セイラは絶対に渡せない。それに、セイラが悲しむこともしてほしくない。彼ならセイラを悲しませることは絶対にしないはずだ。だが、アレク殿下とセイラの妹君がどんな手を使ってくるか……)

 ガイズに謀反を起こさせるために、あの二人はよからぬ手立てを企てているかも知れない。絶対にそんなことをさせないためにも、どんな些細なことでも見逃すことはできないのだ。

 ダリオスは顔を上げると、真剣な表情で机の上の書類に目を通し始めた。
< 100 / 120 >

この作品をシェア

pagetop