隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
 通りすがりの男性がそう言うと、それを聞いた他の人たちもそうだそうだと頷く。だが、それを見て男は気に食わないというような顔をした。

「はっ、この国を助けてくれてる?この国にいた頃は、フードを被ったまま隠れるようにひっそりとしていたのに、敵国に嫁いだ途端、顔を出してこうやって意気揚々と歩いている。そもそもおかしいと思わないか?この聖女がポリウスからいなくなってから急に瘴気が強くなり、流行病で国がおかしくなったんだ」
「それは、もう一人の聖女様が祈りの力を使えなくなったからで……」
「それもおかしいだろ?タイミングが良すぎないか?それに、そのもう一人の聖女、ルシア様は国王と一緒に捕まったんだろう?そのルシア様を陥れるために、この聖女は敵国に嫁いだんじゃないかって噂まである」

(そんな!)

 男の話に、セイラは驚いて目を見開く。そんなセイラに、人々は徐々に疑いの眼差しを向け始めた。ヒソヒソと小声で何かを言い始める人たちまでいる。

「おい、勝手な噂で人々を惑わすな。それに、セイラがレインダムに来ることになったのは彼女の意思に関係なく強制的にだ。彼女を責めるなら、まず夫である俺を責めればいい。彼女に俺が惚れ込み、レインダムに連れてきた。もしもポリウスが傾いたのがセイラのせいだと決めつけたいのなら、むしろ俺のせいだ。セイラは関係ない。責めるなら俺を責めるがいい」

 ダリオスはセイラを庇うようにして肩を抱きながら、静かに口を開いた。その声は、低くしっかりとしているが、どこか怒りがこもっているようにも思える。ダリオスの声が響いた瞬間、その場の空気がビリッと振動するのがわかった。

(ダリオス様、そんなこと……!)

 ダリオスはあえて自分が悪者になることでセイラを守ろうとしている。セイラがダリオスを見上げると、ダリオスはセイラに一瞬視線を送り、静かに微笑んだ。そして、すぐに男を睨み付ける。だが、男は怯まずにまた声を上げた。

「ああ、そうか。あんたも共犯てわけだ。こいつらのせいで、この国はレインダムに乗っ取られたんだ!こいつらが悪い!なあ!みんなもそう思うだろ!」

 男がセイラたちを指差し大声でそう言うと、周囲にいた人たちも次々にセイラたちに嫌悪の眼差しを向ける。

「出ていけ!ポリウスから出ていけ!二度とくるな!」
「ルシア様を返せ!」

 次第に歓声が大きくなり、セイラたちは怒声に囲まれる。ダリオスが顔を顰め、また口を開こうとしたその時。

「なんの騒ぎだ!」

 後方から、一人の男性の声がする。その人物が人々をかき分けて男の前に出てくると、セイラは目を大きく開き、ダリオスは眉間に皺を寄せた。

(ガイズ!)
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