隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
(何が、起こっているの……?)

 セイラは唖然としてその場の光景を見つめていた。ガイズは裏切ってなどおらず、むしろアレクを騙していたのだ。そして、それは国王も、第二王子であるアルバートも、ダリオスたちも皆知っていることだった。唯一、セイラだけが何も知らず、ただ呆然としている。

「アルバート殿下!お願いです!私は、アレク殿下に唆されただけなのです。どうか、私を助けてください」

 瞳に涙を目一杯浮かべ、ルシアが突然アルバートへ向けて懇願するように声を上げた。それを見たアレクが額に青筋を立てて怒号を放つ。

「はあ!?何を言っている!?そもそも唆してきたのはお前の方だろうが!俺が王位につけないとわかったら今度はアルバートに媚を売るのか、このアバズレが!ふざけるなよ!」

 アレクの怒号に、ルシアはビクッと体を震わせると、ううう、と両手で顔を覆って泣き出す。そんなルシアの近くへ、アルバートが歩みを進めた。アルバートが近くに来たことに気づいて、ルシアはぱあっと顔を上げる。両目からハラハラと涙を流し、か弱く守りたくなるような繊細な女性そのものに見えるが、アルバートはそんなルシアを感情の籠らない瞳で静かに見下ろしていた。

「元聖女ルシア。あなたは今までもそうやって演技をして人々を巧妙に騙してきたのでしょう。だが、俺もここにいる人間も誰もあなたのその演技には騙されません。むしろ、反吐が出るほどだ」

 アルバートが呆れたようにそう吐き捨てると、ルシアは目を大きく見開いてからワナワナと震え、怒りに満ちた顔になっていく。それから、キッ!とセイラに視線を向けた。

「セイラ!何ぼさっとしているのよ!私を助けなさいよ!あなたと私は双子でしょう?双子の妹が窮地に立たされているのよ、どうして助けようとしないのよ!あなたがそんなだから私はこんな風になってしまったのよ、そもそもは全部あなたのせいよ!責任取りなさいよ!ねえ、早く助けて!」

 ルシアに突然言われて、セイラの肩がビクッと大きく揺れる。

(双子だから、助ける?こうなったのは私のせい?この状況で、どうしてそんなことが言えるの?どこまでルシアは身勝手なの……?)

 セイラは口を開き言葉を放とうとするが呼吸がうまくできなくて声を発することができない。心臓がバクバクと鳴り、全身の血が体内を目まぐるしく流れている。セイラが口をハクハクとさせていると、セイラの肩にそっとダリオスの手が触れた。

「大丈夫だ、セイラ。何も怖がることはない。落ち着いて、深呼吸するんだ」

(ダリオス様……!)

 ダリオスの手のぬくもりがゆっくりとセイラに伝わってくる。セイラは目を瞑るとほうっと小さく息を吐き、それからゆっくりと息を吸い込んだ。

(息が、できる)

 セイラは目を開き、ダリオスを見つめる。ダリオスはセイラの瞳をしっかりと見つめて頷くと、セイラは胸の前で両手をギュッと握り締め、ルシアを見る。それから、すうっと息を吸って、声を出した。

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