隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません



 コンコン、と部屋が控えめにノックされ、ぼんやりしながらくつろいでいたセイラはハッとして返事をした。

「はい」
「俺だ。入ってもいいかな?」

 夕飯ができたとメイドが呼びにきたのかと思ったが、声の主はダリオスだ。セイラは少しずつ心臓が速くなる。緊張していることを悟られまいと、セイラは声に気をつけながら返事をした。

「もちろんです」

 セイラの声にドアが開く。部屋へ神妙な面持ちのダリオスがゆっくりと入ってきた。
 ソファに座っていたセイラの隣に腰掛け、ダリオスはセイラの手を優しく掴む。

「大丈夫か?」
「ご心配をおかけしてすみません。でも、もう大丈夫です」

 セイラはそう言って微笑むが、その微笑みを見てダリオスは切なそうな顔をしながら片手をセイラの肩へ、頬へ、そして髪の毛へと伸ばし、少し顔にかかった髪の毛を耳にそっとかける。

「執事長から話は聞いた。……ユリア嬢とグレイヴス公爵が来たんだろう。一人で辛い思いをさせてすまない」

 ダリオスの言葉にセイラは両目を見開き、すぐに顔を伏せ小さく首を横に降った。

「セイラ、あの二人の言う事は気にしなくていい。むしろ忘れてくれ。グレイヴス公爵は政治的な駒としてセイラを利用したいだけだ。そしてユリア嬢はそれに便乗して俺とセイラを引き離したいのだろう」

 ユリアの名前が出た瞬間、セイラの肩がびくっと小さく揺れる。ダリオスは眉間に皺を寄せ、セイラの顔に手を伸ばした。優しく、静かにセイラの顔を上げさせると、ダリオスの顔を見つめるセイラの両目は、辛そうで不安げに揺れていた。

「ごめんセイラ。ユリア嬢のことをもっと早くに話しておくべきだった。だが、これだけはわかってほしい。ユリア嬢とは何もない。だからこそ、俺にとっては話をする必要すらないことだと思ってたんだ」

 ダリオスの言葉に、セイラは視線を泳がせながら口を開き、また閉じるを繰り返している。何をどう言ったらいいのか迷っているようだ。
 ダリオスは掴んでいたセイラの片手をぎゅっと握りしめ、もう片方の手でセイラの肩を掴んだ。

「ユリア嬢は俺から花を贈ってもらっていたと言っていたんだろう?あれは俺からじゃない。俺があまりにユリア嬢へ冷たい対応をするから、両親が俺のフリをして花を贈っていただけだ」

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