隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません



 会議が終わり、グレイヴス公爵たちが退室してから、部屋には国王とアルバート、そしてダリオスとセイラだけになった。

「陛下、本当にありがとうございました」
「儂は当然のことをしたまでだ。そなたたちを引き離すことは国のためにならぬ、そう思ったからだ。気にすることはない」

 ダリオスの礼に、国王は細い目を一層細めて微笑み、隣にいるアルバートも満足げに頷いている。そんな国王へセイラが口を開いた。

「陛下、私からもお礼を言わせてください。私は、本来であれば聖女としてあるまじき発言をしました。それでも陛下は許してくださり、あのように場を取り持ってくださいました。本当に、ありがとうございました」

 ダリオスと別れるようなことがあれば、二度と聖女の祈りは行わない。その発言は、聖女としてはあり得ないことであり、本来であればグレイヴスの言う通り反逆だと思われても仕方のないことだ。それでも、国王はセイラを庇い、助けてくれた。

(どんなに礼を尽くしても尽くしきれないほどのことだわ)

 セイラが深々とお辞儀をすると、ダリオスも続くように深々とお辞儀をした。

「セイラよ、そなたの発言は確かに聖女としては不謹慎かもしれぬ。だが、そんな発言をさせてしまったのはグレイヴス公爵であり、我が国でもある。儂はの、たとえ聖女であっても一人の人間だと思っておる。聖女という肩書きで捉えるのではなく、一人の人間として応じるべきだと思っておるのだ。たとえ聖女だとしても、意思を持った一人の人間。その存在を大切にできずに、どうして他の国民も大切にできると言えるのか」

 国王の言葉が、セイラの心へじんわりと広がっていく。それは、ポリウスでただ聖女として、しかも裏聖女として使われるだけだったセイラにとっては体験したことのないことだった。

(こんなにもレインダムの国王は優しく、あたたかく、国と国民を思っている。本当に素晴らしい方だわ)

 ポリウスにいた頃、息を潜め双子の妹であるルシアの陰でひっそりと聖女としての役目をただ務めるだけの毎日。それが当たり前だと思っていた。

 レインダムに来たばかりの頃、ダリオスから腕が治ればすぐにポリウスへ返すと言われ、愛されることはないのだと思っていた。

 だが、レインダムで聖女として生きると決意してから色んなことが起こり、ダリオスと距離を縮め心を通わすようになった。
 ここにいても良い、聖女としてだけでなく、一人の人間として扱われ、自分をもっと大切にするようにと言ってもらえた。

 愛される喜びも、愛する喜びも、この国に来てダリオスと出会い知ることができ、国王たちに見守られ育むことができたのだ。

「私は、レインダムへ来ることができて本当によかったです」

 涙を浮かべ、嬉しそうに微笑みながらセイラが言うと、国王もアルバートも優しい眼差しをセイラへ向ける。ダリオスは感極まった表情で、また国王とアルバートへ深々とお辞儀をした。

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