隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません



(ここが、その場所……確かに瘴気の強さが異常だわ)

 ベラリウスに到着すると、セイラはその瘴気の強さに顔を顰める。昔は小さな町があったようだが、瘴気が発生してからは町は衰退し、今では誰も住んでいない。騎士団の団員たちが馬から降りると、セイラも同じように馬から降りて周囲を見渡した。

「瘴気のせいで魔獣も寄ってきているそうです。くれぐれもお気をつけください」

 近くにいた団員の話に、セイラは真剣な顔で頷いた。セイラの隣にはいつの間にかダリオスがいる。

「俺のそばを離れないように」
「わかりました」

 セイラは周囲を見ながら瘴気の強さを確認する。かなりの強さだ。普通の人間であれば気を失っていてもいいはずなのに、騎士団の団員たちに変化は見られない。この日同行していた騎士たちは、以前ダリオスが怪我をした時に同行していた団員たちだ。皆、瘴気に当たっても問題なく立ち振る舞えるほどの気力と体力を兼ね備えた選りすぐりの騎士たちだった。

(常日頃から心身共に鍛えてらっしゃるからなのね。レインダムの騎士団が強いのも頷けるわ)

「聖女様、どうだろう。浄化できそうか?」

 バルトがセイラに尋ねると、セイラは少し考えるような仕草をしてからバルトを見る。

「かなり強い瘴気ですが、浄化は可能だと思います。ポリウスでもこのくらいの瘴気であれば浄化したことがありますので」
「おお!」

 セイラの返答に、騎士たちが湧く。ダリオスもセイラを見て目を見開いた。

「ありがたい。それでは浄化を……、っ待て!魔獣の気配がする。全員、周囲を警戒!」

 バルトの一声で騎士たちは一斉に帯剣していた(つか)に手を添え周囲を見渡す。ダリオスはセイラを守るようにして身構えた。

「ウウウウ!ガアアア!」

 突然、どこからともなく大きな魔獣が現れた。ライオンのような見た目だが三つ目で牙が大きく生えている。騎士たちは剣を抜いて構えた。

 魔獣は騎士たちに飛びかかる。大きな爪を振り回すが、騎士たちはそれをかわして応戦する、だが、爪に跳ね返されて思うように攻撃できない。だが、次の瞬間、突然魔獣の体が真っ二つに割れた。倒された魔獣は黒い塵になって消えていく。消えていく魔獣の背後には、いつの間に移動していたのだろう、ダリオスの姿があった。

(ダリオス様、いつの間に!?あれが、黒騎士と言われる由縁なのね……!すごいわ)

 気配を消し、いつの間にか敵を倒していると言われる黒騎士ダリオス。その実力を目の当たりにしてセイラは目を輝かせた。

「上出来だ、ダリオス」

 バルトが誉めると、ダリオスは小さくうなずいてセイラの元へ戻ってきた。だが、セイラの近くまで来てから突然左腕を抑えてうめいた。

「くっ!」
「ダリオス様!?」

 ダリオスの左腕から黒々とした瘴気が漏れ出ている。それはダリオスの左腕をぎりぎりと締め上げていた。

(どうして急にあんなに瘴気が……?もしかして周囲の瘴気に当てられてダリオス様の傷口に残っている瘴気が反応している!?)

「うっ、グアッ!」

 セイラは急いでダリオスの左腕を掴もうとするが、ダリオスが痛みに耐えきれずその場に崩れ落ちる。セイラはダリオスのそばに跪いて、ダリオスの左手に両手を添え瞳を閉じる。

(この方の左腕の瘴気が浄化され、痛みが和らぎますように。もうこれ以上瘴気が侵入することのないように)

 セイラの両手から光が溢れ出る。そしてその光はダリオスの左腕を包み込み、絡んでいた瘴気は徐々に消えていった。光が消えると、ダリオスがセイラを見つめる。

「ダリオス様、大丈夫ですか?」
「ああ……すまない、とても楽になった。ありがとう」
「よかったです。ここの瘴気とダリオス様の中にあった瘴気が反応してしまったようですね」
「そんなことが……」
「とにかく、一刻も早くこの場の瘴気を浄化します」

 そう言ってセイラは立ち上がると、両手の指を目の前で組んで祈り始めた。

(この場の瘴気を沈めたまえ、浄化したまえ。聖女としてその力を執行する)

 セイラが祈ると、セイラからいつもの祈りの時よりさらに大きな光が溢れ出す。そしてその光が一瞬で周囲に広がっていった。

「すごい……!」

 ダリオスもバルトも、騎士たちもみんなセイラを凝視している。広がった光によって、瘴気がどんどん薄くなっていき、光が消えると瘴気も完全に消えていた。祈りが終わると、セイラは目を開けてほうっと息を吐く。

 セイラが後ろを振り返って微笑むと、騎士たちが一斉に歓声を上げた。

「聖女様!すごいです!」
「瘴気を完全に浄化したぞ!」
「聖女様!我が国にも聖女様が!」

(よかった、なんとか役目が果たせたわ。……あ、れ?)

「セイラ嬢!」

 騎士たちの歓声を聞きながら安堵していたが、急に目の前が歪む。そのままセイラが倒れ込みそうになるのを、ダリオスが受け止めた。

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