隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません


(やっぱり素敵だわ、綺麗だし、いろいろなお店がある!)

 馬車から降りて羽織っていたローブのフードを目深にかぶると、セイラは周囲を見渡して目を輝かせる。レインダムへ初めて来た時にも思ったが、やはりレインダムは活気があって豊かな国だと思える。

「セイラ嬢、この間の任務の時も思ったが、どうしてそんなにフードを深く被っているんだ?周囲が見えずらいだろう?」
「こ、れは……癖なんです。ポリウスにいた頃はこれが当たり前だったので、つい」

(ルシアの側にいる時は目立たないようにフードを被るように言われていたし、そのうちルシアがいない時でもそれが当たり前になってしまっていたから)

 自分は裏聖女であり、目立ってはいけない。だから、フードを深く被って顔を隠し、影を潜めていることがあたりまえだった。
 苦笑していると、ダリオスは不思議そうな顔をしてセイラを見つめる。

「聖女なのに、か?聖女ならむしろ堂々としているものだとばかり思っていた」

(それは、ルシアの役目だったもの。私は、目立ってはいけない存在)

 セイラがダリオスから視線を逸らし微笑みながら無言で俯いていると、ダリオスがセイラに手を伸ばす。その手は、フードの横でピタリ、と止まった。

「ポリウスではそうだったかもしれないが、ここはレインダムだ。それに、今は聖女として街へ来ているわけじゃない。俺は、フードを被っていないそのままの君と一緒に歩きたいんだけど……駄目だろうか?」

 ダリオスの言葉にセイラが顔を上げると、ダリオスの美しいエメラルド色の瞳と合う。ダリオスの黒髪がサラリと風に靡き、エメラルド色の瞳は太陽の光に照らされてキラキラと光っている。その瞳は、セイラの返事を今か今かと待ちわびているようだった。

(どうしよう、胸がドキドキしてしまって、どう言っていいのかわからなくなる。でも、ここで何も言わないのはおかしいわよね。ちゃんとダリオス様に伝えないといけないわ)

 セイラは自分を落ち着かせるために、小さく息を吸い込んでほうっと吐く。

「駄目、では、ありません」
「そうか、それならよかった」

 セイラの返事にダリオスは本当に嬉しいと言わんばかりの笑顔を向ける。その笑顔を見た瞬間、セイラの心臓はより一層強く高鳴った。ダリオスの手がフードを優しくおろすと、セイラの美しい金髪がはらりと風に靡いた。セイラのスカイブルーの瞳は不安げに揺れるが、ダリオスはセイラを見て力強く頷く。

「やっぱり綺麗だ。君は隠す必要なんてない」

(えっ、き、綺麗!?)

 ダリオスの言葉にセイラは思わず顔が赤くなる。そんなセイラを見て、ダリオスは目を細めてふっと優しく微笑んだ。

「さあ、行こう。はぐれるといけないから、手を繋ごうか」

 そう言って、ダリオスはセイラの手を優しく掴む。いつも浄化でダリオスの手を握っているから平気なはずなのに、急に掴まれたダリオスの手の感触に、またセイラの心臓は速くなる。

(どうしよう、心臓が、もたない)

 俯いてしまうセイラの手を握りながら、ダリオスはセイラの隣をゆっくりと歩き始めた。セイラがそっとダリオスを見上げると、ダリオスはセイラの視線に気づいてまた優しく微笑みかける。

「緊張しなくても大丈夫だ。君が行きたい場所は全部回ろう。どこに行きたい?」

(どこ……と言われても、そもそも街でどこに行けばいいのか全然わからないわ)

「あの、本当に街のことはよくわからなくて……どこに行きたいかもわからないんです」

 申し訳なさそうにセイラが言うと、ダリオスはふむ、と少し考えてから口を開いた。

「だったら、手当たり次第に行ってみればいい。ほら、まずはあの店に行ってみよう」

 こうして、二人は街の中を歩き回った。美味しそうな食べ物の出店、アンティーク屋、小物店、魔法道具屋、アクセサリーショップ……、どれもこれもがセイラの胸を弾ませ、セイラは目を輝かせてダリオスに微笑みかける。そして、楽しそうに歩き回るセイラを、ダリオスは優しい眼差しで見つめていた。

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