隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません


 三人での話し合いが終わって、セイラが先に自室に戻りダリオスとクレアの二人きりになった。

「全く、聖女の祈りを捧げることを怠るなんてセイラ様の妹君は酷い聖女ですね」
「聖女の役目を全てセイラに任せっきりで、手柄だけを横取りしているような聖女だ。もはや聖女と言っていいのか疑問になってくるな」

 不満そうに言うダリオスを見ながら、クレアは口の端を上げた。

「そういえばダリオス様、いつの間にセイラ様のことを呼び捨てするような仲になったんですか?」

 クレアに言われて思わずダリオスがクレアを見ると、にやついた顔のクレアと目が合う。

「……別にいいだろう」
「まあ、お二人は夫婦ですからね。でも、確か契約結婚だったのでは?セイラ様がこの国に来たばかりの頃は、腕が治ったらポリウスに帰すと言っていたはずです。それなのに、今は帰したくないだなんて」
「彼女は聖女としてこの国にとって必要な存在だ。当たり前だろう」
「聖女として、ですか。本当にそれだけ?」
「何が言いたい」

 ニヤニヤしながらクレアが言うと、ダリオスはムッとした顔でクレアを見る。だがすぐに大きくため息をついた。それを見てクレアはさらにニヤついた顔で口を開いた。

「いいんじゃないですか、お二人ともとてもお似合いだと思いますよ」
「お似合い、か。そうだといいが」
「何か気になることでも?」
「彼女は聖女としてレインダムと俺のために役目を果たしたいと言っていた。俺と一緒にいたいとも言ってくれたが、それはやはり聖女としての気持ちなんだろう。聖女という肩書き無しに、彼女自身が俺と一緒にいたいと思っていてくれているわけではないのだと思う。それに、それを望むのも贅沢だというのもわかっている」

 頭ではわかってはいる、だが、一人の男としてセイラに見てほしいと、ダリオスはどうしてもそう思ってしまうのだ。

「そうでしょうか?セイラ様もダリオス様のことを慕っているように見えますよ。というか、お二人ともお互いの気持ちを確認していないのですか?……まさか、ダリオス様、セイラ様にまだ手を出していない?」
「……その言い方はやめろ」
「ダリオス様、意外と奥手なんですね。ああ、そうか。ずっと騎士として生きてきたから、そういうのに疎いんでしたっけ」

 クレアがやれやれと言った口調で言うと、ダリオスはまた大きくため息をついた。騎士としてこの国に命を捧げると決めて生きてきたから、結婚は愚か女性にさえ興味が無かった。それが、今となっては仇となっている。

「彼女の気持ちがどうであれ、俺は彼女を手放すつもりはない。彼女は自分の意志でこの国に残りたいと言ってくれたからよかったが、もしポリウスに帰りたいと言われたら、監禁してでもポリウスに帰さないつもりだった」
「は?監禁?そこまで?」

 クレアは若干引いているが、ダリオスはそんなクレアに気付いてもいない。

「そうだ、クレア。君に頼みたいことがある」

 そう言って、ダリオスはポケットからとあるものを取り出し、クレアに見せた。ダリオスの手には、オーロラ色の小さな宝石が一粒ついた指輪がある。

「これは……もしかして」
「ああ、これに、とある魔法をかけてほしい。彼女を守るために必要なものだ」
「セイラ様を守るためのとある魔法……?ああ、なるほど。言われなくても察しはつきます。察してしまう自分が憎いですが」

 クレアがまた若干引き気味でそう言うと、ダリオスは一体何が問題なんだ、という顔でクレアを見た。

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