隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
 アレクが口の端に弧を描いてそう言うと、アルバートも真顔で頷いた。バルトもクレアも同意の意を込めて静かに頭を下げる。

「セイラよ、そなたにとっては苦しいことかも知れぬが、わかってほしい。ダリオスも、セイラのことを思うならば納得がいかぬかも知れぬが、そなたであればわかってくれるだろうな」
「セイラの夫であると同時に、自分はレインダムの騎士です。国王のお考えは承知の上。そしてその国王の決断であれば、それに従います」
「……私も、国王様のお考えは当然のことだと思います。私は確かにポリウスの聖女であり、ポリウスの国王の娘、そしてルシアの双子の姉です。ですが、今はレインダムの聖女であり、ダリオス様の妻です。私は、レインダムの国王の決断に従います」

 セイラの言葉に、国王は細い目をより一層細めて微笑んだ。アルバートもバルトもクレアも、静かに微笑んでいる。アレクだけが、どこかつまらなそうな顔でセイラとダリオスを見ていた。

「へえ、ポリウスの元聖女様は自分の家族を見捨てるのか。まあ、そもそも家族に見捨てられてレインダムへ来たんだものな、やり返して当然か」

 ははは、とアレクが笑うと、国王もアルバートも呆れたような、うんざりした顔をしている。ダリオスは込み上げる怒りを堪えるため、セイラの手を握っていない方の手を机の下で思いきり握りしめていた。それは爪が食い込んで、血が滲み出そうなほどだった。

「アレク、お前は少し黙っておれ。それでは、ポリウスの国王ともう一人の聖女の処分については決まりだ。次に、ポリウスの騎士団についてだが、バルトよ。お前に一任してよいか」
「はっ、仰せのままに」
「ポリウスの騎士団は荒削りだが、忠誠心が厚いと聞く。なかなかに手強いかもしれぬが、お主であればうまくまとめ上げてくれるだろう」
「ご期待に添えるよう、尽力いたします」
「うむ。それから、ポリウスの魔法省については、クレアに一任したい」
「仰せのままに」
「バルトもクレアも、ポリウスのことについてはセイラに助言を求むと良い。セイラも、二人に手を貸してやってくれ」
「かしこまりました」

 セイラがそう言ってバルトとクレアに微笑みかけると、二人もそれに答えるようにセイラに微笑みかける。そんな三人をダリオスは少しだけホッとしたような、嬉しそうな顔をして見つめた。
< 67 / 120 >

この作品をシェア

pagetop