隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません

 浄化が終わり、転移魔法で城へ戻ると、ガイズがすぐに口を開いた。

「セイラ様、先ほどは怖い思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。我々の力がもっと強ければ……セイラ様をあんな目に合わせることもなかった」
「そんな、気にしないで。ガイズたちはあの時私やルルゥから魔獣が離れるようにしてくれたんですもの。謝られることなんて何もないわ」
「ですが……」

 ガイズが苦々しい顔で口籠ると、ダリオスがガイズを見て口を開いた。

「ガイズ殿、なぜ勝ち目のない相手と戦っていたのか説明していただきたい。騎士団長として、セイラや他の仲間たちを危ない目に合わせてしまうという考えにはならなかったのか」
「それは……」
「あなたはセイラを守ると言ってくれた。たから俺もあなたに託した。だが、先程の状況はセイラの命に関わるほどのものだった」

 ダリオスの恐ろしいほどの低い声が響き渡る。

「その場の状況を見て、撤退すべきであれば何よりも撤退を優先すべきだ。それを怠ったのはあなたの責任なのでは?」
「あの、ハロルド卿、あの状況では仕方がなかったんです。魔獣が現れた段階で、ガイズ様は自分を囮にしてセイラ様から魔獣が離れるようにしてくださいました。ガイズ様の判断はあの時点では最善だったはずです」

 控えめだがしっかりとしたルルゥの言葉に、ダリオスは視線を向けずただ耳を傾けている。視線を向ければルルゥはダリオスの気迫に恐れをなして言葉がでなくなってしまうだろうことを、ダリオスはわかっているのだ。

「本来であればすぐにでもセイラ様だけでも城へ転移させるべきでした。それができなかった私にも落ち度があります」
「ルルゥ!」

(そんな……!ルルゥだってあの時点で最善の判断をしていたはずなのに……!)

「ダリオス様、それなら私にも落ち度があります、ルルゥが私を先に城へ転移させると言ってくれたのに、私が迷ってしまったんです。そうしている間に負傷者が出てしまって……だから、私にも落ち度があります。ルルゥたちだけが悪いのではありません」

 セイラは両手を強く握りしめダリオスへ訴えかけると、ダリオスは目を閉じて大きく息を吐いた。

「……それぞれの言い分はわかった。だが、あの場に着いた段階で瘴気の強さから尋常ではない魔獣が現れるかもしれないことを危惧すべきだ。魔獣が出る前に撤退するか、セイラを先に城へ転移させるべきだった。そのことはガイズ殿もわかっていると思うが」

 ダリオスの言葉に、ガイズはおろしている手をきつく握りしめながら、神妙な面持ちで頷く。

「……明日も浄化がある。セイラも相当疲れただろうから、今日はこの辺でお開きにしよう。ガイズ殿たちも、しっかりと休んでくれ。行こう、セイラ」

 セイラの体に腕を回し、セイラを促すダリオス。セイラはガイズを含む騎士たちやルルゥに視線を向けて小さくお辞儀をしてから、ダリオスと一緒に歩いて行った。




「ここが私の部屋です。本当に何もない部屋なのですけど……」

 セイラの部屋に到着してセイラがそう言いかけると、ダリオスはセイラの言葉を遮ってセイラをきつく抱きしめた。

「ダリオス様?」

 セイラの呼びかけに、ダリオスは返事をせずただセイラを抱きしめている。

(ダリオス様、少し、震えている?)

「セイラが無事で本当によかった……」

 ダリオスに抱きしめられていて、ダリオスの切羽詰まったような声がセイラに直接響く。そしてダリオスはセイラから体を離して、セイラの頬にそっと手を添えてセイラを覗き込む。ダリオスのエメラルド色の美しい瞳は不安げに揺れていて、今にも泣き出しそうだった。
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