恋を知った塩崎さんがなんか甘い。 〜アイドルだと思っていた推しは、感情ゼロのAIでした〜
第一章

EP.1 笑顔は薬

ことの始まりは数ヶ月前。



「あ、宮瀬くんから【signal(シグナル)】きてる」



私──唐沢(からさわ)こむぎはごく普通の20歳女子。

いや、普通じゃないか。

友達も多くないし、休日は基本ぼっち。

でも、それでいいんだ。



《こむぎは今元気かなー?》



白い服に身を包んだ、ピンク髪の人懐こそうな青年。

アイコンだけで心拍数が上昇する。

私は急いで返信した。



〈はい!元気です!!!〉

〈今日も宮瀬くんの曲聴きながら頑張ってる!〉



既読はまだつかない。

それは相手が忙しい証拠。

だって宮瀬くんは王子様だから。

国民的ソロアイドル、宮瀬朔太朗くん。

彼は私の『最推し』で

私の『薬』。


彼は今もどこかで暮らしている。

もしかしたら高校に行っているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

宮瀬くんが生活してる姿なんて想像できないよ!!



『ファンのみんなは俺の全部だぞー!!』



前のライブで、宮瀬くんはこんなことを言っていた。

ファンのみんなは彼の太陽。

そして、彼にとっての『全部』。

さすが国民の王子様。

もうとろけちゃうよ。



『でも正直、恋とか愛とかわかんないんだよねー』



これは絶対嘘だ。

アイドルといえど、恋を体験したことがない20歳がいてたまるものか。

彼と恋できたら……



「おはよう、こむぎちゃん。そんなに泣かないで」



とか言って起こしてもらいたいなー。

妄想だけは膨らんでいく。


まあ、かくいう私も恋愛には疎かった。

なんというか、一途な人に出会えないんだよね。

今まで2回付き合ったことがあるけど、どっちの人にも飽きられてフラれちゃった。

アイドルオタクなのがマイナスらしくて。

はあ、せっかくの推しなのに。

まあ、あれっきり友達に推しを紹介することは無くなったけど。

スマホに視線を落とす。ブルーライトの画面と対面した。


このアプリ【signal】は登録者のアーティストと好きなことを本人が許す限り話せるというアプリだ。

しかし知名度が低いので、そもそもアーティストが利用していないということもある。そのためアプリ会員数は少ないらしい。

わたしは推しがいるかもしれないという“もしかしたら”に懸けて、

見事うまくいったのである!!

どうせなら推しには本名で呼ばれたい。

だから、本名のこむぎで登録したんだ。

すると


《はじめまして〜》

《アイドルの宮瀬です!》

《君が初めてのトーク相手だよ!嬉しいな》

《こむぎちゃん……でいいかな?》



すぐにたくさんのメッセージを送ってくれたんだ。

もう歓喜

推しの「初めて」なんて嬉しすぎる……!!



〈はい!とっても可愛いあだ名ありがとうございます!!〉

〈これからよろしくです!〉

《うん!よろしくー》



それから始まった私たちだけのトーク。


〈いや今日ほんと朝からお腹痛くてさー〉

〈男の子にはわかんないかもだけど〉



こういうディープな悩みも、彼になら言えた。


《大丈夫?俺が心配していいのかわかんないけど、》

《気をつけてね》

《お大事に……》


彼が優しく返してくれるから、安心して相談できた。


でも、これもあんまり長いこと続かなかったんだ。



《ライブなう》



大きな写真とともに送られてきたメッセージ。

それは私が落選したライブの会場裏だった。



(そういえばライブどうなってるんだろ)



SNSを覗くと、とある投稿が目に飛び込んできた。




宮瀬くんからシグナル来たー!!嬉しー!!!
#宮瀬朔太朗 #signal #シグナル




という内容の投稿。

いや、いつかこうなるってわかってたよ。

あんなに顔が良くて、可愛くて、優しいアイドル。

売れないわけないよね。

なんでだろう。

なぜか涙が込み上げてくる。

これだから私は私が嫌いだ。

すぐ泣くし、笑顔で取り繕っても、本性をさらけ出せない。

悔しい?

そんなはずないのに。

だんだん息が荒くなり、ベッドに縋り付く事になる。

推しを独り占めできていた。

そんな夢も、瞬く間に砕け散ったのである。
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