おれが好きなのは、おまえだ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 散々鍋の材料を揃えておいて、肝心の鍋のタレを買っていないではないか。

 なににしよう。醤油。ちゃんこ。味噌。……魚の下処理をする気にはなれないな。

 わたしはここで笑いそうになった。

 振られたってのに。のんきに鍋の材料なんか買い漁ってやんの。やーいやーい。そんなんだからセレブ男に振られたんだぞ、と。

 おまえなんかひとりいなくなったって世の中誰も困りゃしねえっての。

 ――ああ。

 ため息を押し殺す。もう、つっこみが絶望的に暗いわ。いま、目の前に崖があったら笑って飛び降りてるかも。

 いかん。

 下を向くとなんだが目の奥が熱くなり、必死で歯を食いしばる。ここをどこだと思っている。学校でも家でもない、大人の立ち寄るスーパー。ましてやわたしは妙齢の女性。年齢一桁の子どもならわーわー泣くことも許されるけども。

 と思えば思うほどに思考は追い詰められ目も頬もどんどん熱くなっていき、たまらず片手で目を覆う。

 ――と。



「もし。そこの、爆買いしてるお嬢さん」


 驚きに涙腺が動きを停止する。

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