雨の日
空は曇っていたが乃々は気にしなかった。
車が脇を通る道路で、学年が少し上のランドセルをしょったお姉さんグループが乃々を追い越していく。
「おはよう」
後ろから声をかけられて、乃々が振り向くと、黒髪のきれいな顔立ちの男の子が、鞄を持って立っている。
それが同じクラスの佐倉くんであることを、乃々はまだ思い出せなかった。
「今日早いんだね。いつもは僕と時間全然被らないよ。遅刻すれすれに来る時もあるだろ。」
佐倉くんは笑顔で言った。
それから、乃々の顔をじっと見つめて黙ったので、乃々は何かと思って瞬きした。
「どうかした?」
佐倉くんは、ポケットからティッシュを出すと引き抜いて、手を伸ばして乃々の口を拭ったので乃々はバランスを失って一歩後退した。
「口、マーマレード付いてる」
「あ、そう」
乃々が棒立ちになっていると、佐倉くんは
「手」
と一言言った。
「手?」
「自分でやりな。赤ちゃんじゃないんだから。」
佐倉くんは乃々にマーマレードの付いたティッシュを手渡した。
腕組みをすると、佐倉くんは乃々が口の周りを拭うのを見ていた。
「昨日給食でプリン出たけど、乃々は食べられちゃただろ。」
歩き出しながら佐倉くんが口を開いた。
「なんで好きなもの人にあげちゃうの?。馬鹿だよ、それ。」
「牛乳飲んでた時に聞かれて、答えなかったら勝手に食べちゃったんだよ」
「ふーん。トロい。そういうの。気をつけな。」
それから、
「今日はシチューだってさ。」
とついでの様に言った。
学校が見えてくると、同じクラスの生徒達が、乃々達とおんなじ様にして登校している。
佐倉くんはなんとかという(乃々はその子の名前も思い出せなかった)男の子と合流して、乃々から離れていった。
少し後ろで喋っている佐倉くんと男の子をそのままに、乃々は昇降口で靴を変えた。