妖寄りし、桜美し
第一章、波乱の幕開け
妖怪、怪異、(あやかし)
古来よりこの国にいるモノ達の総称である。
それらが一番勢力を伸ばしていた時期は平安時代。
大陰陽師、安倍晴明(あべのせいめい)の活躍によって彼らは次第に大人しくなり、それに比例するかのように人々の記憶から忘れ去られていった。
それから約千年後の現代。

空が明るい気がして、ふと顔を上げて空を見る。先ほどまで広がっていた雲はいつの間にかなくなっていた。
お饅頭のような満月が、空に浮かんでいるのが見えた。
リモコンで電源を落とし、パーカーを羽織る。まだ春先の夜は少し冷える。
その時、ちょうど電話が掛かってきた。
「もしもし、安倍くん?」
『仕事の電話以外お断りしてまーす』
棒読みの気の抜けた声が聞こえてきたので、すぐにでも切りたくなった。
満月の日は妖の力が強くなるらしい。だから、時代が変わっても不可解な事件が後を絶たない。
ブチッと電話を切ると、折り返しが掛かってきた。
(いや、話す内容あるんかい!!)
一度切ってもまた掛けてきたので、通話ボタンを押す。
『切る?普通』
「さっきの言葉そっくりそのまま返して良い!?」
『え、駄目♡』
先に言っておこう。
安倍くんとは家族ぐるみの腐れ縁なだけあって、別に恋人とか友達とかそんな関係じゃない。
顔を合わせれば五秒で言い合いやらに発展するくらい仲が悪い。
しかし、不服なことに傍から見れば仲が良いようで......。
「で、どーしたの。安倍くんのことだから妖退治の話やと思うけど......」
『ピンポンピンポン、大正解!』
無性に電話を切りたくなった。
『ま、とりあえず俺の家に来てよ』
「はいよー」
電話を切って、スニーカーを履く。
安倍家に向かってる時、ぐんっと何かに足を引っ張られた。
振り返っても、そこには誰もいない。気のせいだったともう一度歩き出そうとすると、今度は足に軽い衝撃が走り、振り返って足元をよく見ると、そこには見たことのない生き物がいた。
とりあえず拾って、安倍家に向かうことにした。
徒歩五分、
昔から何度も出入りしている、見慣れた和風の一軒家の前に立った。
いや、見慣れたといえ、豪邸なのには変わりない。
重い木の門を押し開けると、着物に袴姿の安倍くんが小走りで歩いてきた。
「え、どうしたん。それ」
安倍くんは驚いたように目を見開いた。
「ちょっと道で懐かれた」
「へー、ちょっと見せて」
安倍くんが手を差し出すと、ぴょんっと安倍くんの手のひらに飛び乗った。
それを両手で掴み、上下左右からまじまじと見つめて検分を始めた。
撫でたり、つついたり、ひっくり返してみたり、色々してから安倍くんはボールを放るみたいに、地面に放り投げた。
「どうやら宿り主を探してるみたいだよ」
「宿り主?」
「古い物や思い出のある物は魂が宿るって聞いたことあるでしょ?実際は実体を維持できないくらい力の弱い妖がそういった物を依代にして現世に留まるんだよ」
物を大事にすると魂が宿る。というのは昔にお婆ちゃんが言っていたことで、なんとなく物を大事にしなければと思うようになっていたが、それは妖が絡んだものだったからなのか。
立ち話も何だからと言う訳で、家に上がらしてもらう。
「でも、困ったことに物以外に人間にも宿ることがあるんだよねぇ」
「憑依ってこと?」
「そんな感じ。妖単体と違ってそう簡単に退治できないし......たまに祓ってほしいって依頼がくるんだよねぇ」
「大変やね、現代の陰陽師も」
「人間や動物に宿った場合は、どんな大人しい人でも魂が拒絶反応起こして暴れ狂うから、そうなると押さえつけながら祓うしかないから面倒なんだよね。ま、そこは父さんに任せてるけど」
「……ってことは」
私は、畳の上を転がっていた丸い生き物を見る。
それは、ころんと転がったまま、じっとこちらを見ている。
「この子も何かに宿る?」
「可能性は高いやろな」
安倍くんはあっさり言う。
「なら、これとかどう?」
鞄から取り出したのは、古びたこけし。
「もう俺ツッコまんからな」
それから数分くらい宿れそうな物を物色していると、安倍くん母が(ふすま)を開けてお茶菓子を持ってきてくれた。
「澪ちゃん。ゆっくりしていってね〜」
ウキウキ顔の安倍くん母。何でこんなふわふわして優しい母から安倍くんみたいなサイコが生まれるんだろう......不思議。
「お茶菓子!ありがとうございます!」
「良いのよ〜。それより、こんな夜中にどうしたの?」
「安倍くんに呼ばれました」
陽斗(はると)!中学生の女の子を夜中に呼び出すなんて、そんな子に育てた覚えはないわよ!」
「母さん、誤解やって!本当は妖退治に行こう思ってんけど、澪が妖を引っ付けて来よってん!」
「あら、そうなの?」
「そうなんです......」
「妖に好かれる(みつ)でも出してんちゃうん?」
「こら、陽斗!」
安倍くん母にぺしっと頭を叩かれ、陽斗は不満そうにそっぽを向いた。
「それよりも、澪ちゃん。生活大丈夫?」
安倍くん母は私に目線を合わせる。
「もう中学生なのでまぁ、家事とかできるので大丈夫ですよ」
「ご両親が亡くなってもう一年経つものね。ねぇ、やっぱり私達と」
「あ、それは大丈夫です」
後に続く言葉が予想できてた私は、安倍くん母の言葉を遮った。
私はできるだけ明るい声を出した。
「学校も近いですし。たまにこうして遊びに来ていますし......。最近は自分で御札も作れるようになったんですよ!」
「まぁ!それは凄いわ!よーし、お祝いしなくちゃ。ケーキは何味が好きかしら?小さい頃はショートケーキが好きだったわよね」
「え、ちょ...」
「でもせっかくのケーキだもの、自分で選びたいわよね......」
うーんと考え込む安倍くん母。
「ケーキとか大丈夫で―――」
「そうだわ!明日の放課後二人で買いに行きましょう!明日は早いって陽斗から聞いたのよ〜」
「じゃあ、それで良いです.......」
(安倍くん母、恐るべし)
「とりあえず......」
つまらなそうに安倍くんが立ち上がり、毛玉の妖を持ち上げた。
「こいつはどないしようか。牢にでもぶち込んどく?」
「宿り主を探しているだけなら害はないわ!あと、牢を使うならお掃除しないとね!」
「私、お掃除手伝いますよ?」
「まぁ!澪ちゃん、優しい......!じゃあ明日頼むわね。今日は泊まっていくわよね。お布団は私の隣で良いかしら?」
「やった!安倍くん母の隣!!」
「女子会よ女子会〜」
安倍くん母はにこにこしながら襖を閉めた。
襖の奥から安倍くん母と安倍くん父が何やら話し込んでいる。
ケーキという単語が聞こえてくるから、きっとお祝いのことだろう。
毛玉はコロコロ転がっていたと思ったら、私が適当に置いたこけしに乗り移った。
「「あ」」
こけしは数日前に三十円でリサイクルショップに売られていたんだ。
まさか、こけしに乗り移るとは......。
とりあえず、安倍くんに渡すことにした。
「こけしに乗り移ったなら牢に入れんでもええんちゃうん?」
「それな」
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