第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「そんなに大変?」

「うーん……何だろう。孤独、ってやつかな」

「そっか……」

短い沈黙のあと、テオが、まるで心の奥をそっと覗くみたいな声で呼びかけてきた。

「ねぇ、お嬢さま」

「なに? テオ」

「——俺と、愛の逃避行する?」

冗談みたいな言葉なのに、紅い瞳はまっすぐで、逃げ場がないほど近かった。

「……」

胸がきゅっとして、息が詰まる。

「珍しいな。わりと本気で悩んでる顔だ」

「ば、ばれた!」

慌てる私を見て、テオは小さく笑う。
その笑い方が、いつもより少しだけ優しくて、少しだけ危ない。

「お嬢様が望むなら、それでもいいよ。逃げたってさ」

一拍置いて、彼は首を傾ける。
その仕草が、妙に近く感じる。

「でも……今は、逃げるときじゃないよね」

「……テオが、そう言うとは思わなかった」

「そう?」

「テオなら、無理矢理でも連れ出してくれるかと」

「それはね」

テオはふっと笑みを消し、静かに私を見つめた。
月明かりがその横顔を照らして、どこか危ういほど綺麗だった。

「お嬢さまが、本気で望んでたら、だよ」

「……」

「でも今のお嬢さまは、葛藤してる」

テオの声は低くて、優しくて、逃げ場がない。

「逃げたら、その代償が来るってことも……ちゃんとわかってる顔してる」

その言葉に、胸の奥をそっと撫でられたような、見透かされたような感覚が走る。

——逃げたい。
でも、逃げたくない。

そのどちらも、まだ手放せずにいる。
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