第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
そして食事マナーの授業。

「背筋を伸ばしてください。
食器の音は立てないように。
——美しく」

淡々とした指導の声を聞きながら、
私はナイフとフォークを操る。

……なるほど。

ふと、ディランの言葉が脳裏をよぎった。

『ただ……食べにくいものは、少し面倒だ』

『自由に食べる、というより——
“間違えずに食べる”ことを覚えさせられた』

今なら、よくわかる。

正しく。
美しく。
失敗しないように。

——これでは、食事をしている気がしない。

授業が終わり、思わずため息が漏れた。

退屈だ。
息が詰まる。

剣が振りたい。

筋トレだけでは、どうにも物足りない。

そんなことを考えながら廊下を歩いていると、
ふと、足が止まった。

甲冑の置物。

その横に——
無造作に立てかけられた、もの。

私は、じっとそれを見つめる。

……これ。

これ、いいのでは?

私は、それを誰にも見られないように部屋へ持ち帰った。

……うん。

手に馴染む。
触り心地もいい。
重さも、申し分ない。

私はテーブルの位置をずらす。
天井にも壁にも、ぶつからない。

よし。

そして、甲冑の横に立てかけられていた剣を手に取る。

振り下ろす。

——いい。

これだ。

これこれ!

久しぶりの感覚に、胸が高鳴る。

考えるのをやめ、
私はただ、無心で剣を振り続けた。

風を切る音。
腕に伝わる重み。
体の芯が、目を覚ます。

——そのせいで。

興奮していたせいで。

私は、ひとつ大事なことを忘れていた。

鍵を、閉めていなかったことに。
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