第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
あっ、お嬢様だ。
友達ができたらしく、並んで歩いている。
良かった。前よりずっと表情が柔らかい。

……だが、その先に見えるのは——またあの意地悪な連中か。
お嬢様に泥をかけようとしている。
いや、あれは……馬糞か。くだらない。

だけどちょうどいいな、、アリスと話していたところだ。
ここは俺の出番だな。

気配を消し、そっと近づく。
令嬢たちがロープを握り、今まさに罠を発動させようとしていた。

俺は小さく息を吸い、囁くように詠唱する。

「紅く、鋭く、縛れ——スピネル」

紅い光が剣先に宿り、バケツを支えるロープの結び目へと走る。
光は糸のように絡みつき、結び目の向きを“ほんの少しだけ”変えた。

次の瞬間——。

「今よ!」
令嬢たちが勢いよくロープを引く。

だが、バケツはお嬢様の頭上ではなく、
仕掛けた本人たちの真上へと傾いた。

どさっ。

「きゃあああ!?」
「ちょ、なんでこっちに!?」

馬糞の匂いと悲鳴が入り混じり、慌てふためく姿はなんとも滑稽だった。


馬鹿げた罠で彼女の歩みを止めることはできない。
紅い光はすでに消えた。

……これでいい。

お嬢様の笑い声が遠ざかるのを聞きながら、俺は影へと溶けた。

彼女が前を向いて歩ける限り、俺は何度でもこの手を汚す。
それが、俺にできる唯一のことだ。



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