第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
そして私は、
気づけばティアナ様の侍女になっていた。

特別な契約があったわけでもない。
劇的な出来事があったわけでもない。

ただ、
自然にそこに立っていた。

——後から聞いた話だ。

ある日のこと。
何気ない雑談の中で、ふと思い出したようにお嬢様が言った。

「研修でさ、伯爵家に侍女として来てた時期、あったでしょ?」

「はい」

「あの頃からね」

一拍置いて、
こちらを見る。

「目、つけてたの」

「……え?」

思わず聞き返すと、
お嬢様はニヤリと笑った。

年相応とは言いがたい、
妙に大人びた笑み。

「良い仕事するなぁーって」

軽い調子なのに、
背中に、ぞくりとしたものが走る。

——あの頃から?

まだ12歳だったはずだ。
なのに、そんな“選別”を。

「それにね」

お嬢様は、
少し声を落とした。

「アリスはさ、剣っていうより……」

一瞬、言葉を探すように間を置いてから。

「銃の方がいいよ」

「……銃、ですか?」

思わず目を見開く。

「うん」

当然のことのように、頷く。

「小型魔導拳銃」

さらりと告げられる単語に、
言葉を失う。

「魔力だけを断ち切る、封魔弾」

——封魔弾。

人の肉体ではなく、
魔力そのものを封じる弾。

「だからさ」

少しだけ、声が柔らぐ。

「人を、傷つけないでしょ?」

その言葉を聞いた瞬間。

胸の奥が、
ひどく静かになった。

父が望んだ“騎士”でもなく、
宝石が与えた“力”でもなく。

——この方は、
私の「望まなかった未来」まで見えていた。

ぞっとするほど、優しくて。
同時に、底知れなく恐ろしい。

この人は、
最初から——

私の行き先を決めていたのだ。
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