第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

侍女ティアナ

ティアナside

さてと。
アリスが調べてくれた部屋、探ってみるかな。

足音を殺しながら、廊下を進む。
夜の屋敷は静かすぎて、逆に落ち着かない。

「……この辺、のはずなんだけど」

1つ目の扉に手をかける。

違う。

2つ目も、3つ目も――違う。

「うーん……」

部屋が、広すぎる。
同じような扉が並びすぎていて、どれも怪しく見える。

「もうちょっと絞り込みたいんだけどなぁ」

私は軽く息を吐き、目を閉じた。

視覚を手放し、代わりに――
“感じる”ことに集中する。

私は持っていた短剣、魔宝剣のラピスラズリに触れる。
胸の奥がざわつくあの感覚。

空気の重さ。
肌にまとわりつく、わずかな違和感。

感覚を、研ぎ澄ませる。

――こっちだ。

ほんの一瞬、
風に混じって、嫌な冷たさが流れた。

目を閉じ、呼吸を整える。

「蒼き想いよ…応えて ラピスラズリ」

――来い。

意識を内側へ沈めていく。

すると、空気が変わった。

冷たいわけじゃない。
重いわけでもない。

ただ――濁っている。

胸の奥が、わずかにざわつく。
嫌悪感とも違う、警戒に近い感覚。

「……やっぱり」

目を開けると、視界の端が一瞬だけ歪んだ。

はっきりと“見える”わけじゃない。
黒い霧のようなものが、そこにある――気がするだけ。

壁に染みついているようで、
それでいて、ゆっくりと脈打っている。

「魔力の残滓……?」

それとも、人の欲や恐れが溜まったものか。

近づくほど、胸の奥が小さく軋む。
耳鳴りのような、かすかな不快感。

――ここだ。

この部屋。
間違いない。

私はそっと扉に手を伸ばしかけたが…
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