第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
ふっと、庭の奥――森の影が揺れた。
風ではない。
そこに“誰か”がいる。
――一人。
次の瞬間、背後の空気が沈む。
踏み込みの気配。
刃の気配。
来る。
相手の袖口から、短剣がみえる。
「――蒼き風よ、導け。ラピスラズリ」
振り向きざま、魔宝剣を起動する。
蒼い風が一気に広がり、刃を包む。
金属がぶつかる鋭い音が、静寂を裂いた。
防いだ。
刺客の目が見開かれ、一歩退く。
その一瞬の揺らぎ――逃すつもりはない。
私は踏み込み、距離を詰めた。
その時だった。
「ねぇ。
お嬢様に、何してるわけ?」
低く、地を這うような声。
刺客の背後に、いつの間にかテオが立っていた。
影のように、音もなく。
カラン、と短剣が地面に落ちる。
刺客の手が震えていた。
「……あ、あの……
は、離してくれ……」
「離すわけ、ないよね」
テオの声には温度がなかった。
ただ事実を述べるだけの、冷たい音。
「お嬢様に刃を向けた。
それだけで――お前の運命は、決まった」
刺客の喉がひゅっと鳴る。
「テオ、殺さないで」
私は強く言った。
命令として、願いとして。
「……なんで?」
ゆっくりと振り返ったテオの瞳が、紅く光る。
理性よりも本能が前に出た獣のような目。
「こいつ、いらないよ?」
じろり、と刺客を見下ろす視線。
命の重さを測るというより――
“価値があるかどうか”だけを見ている。
――まずい。
このままでは、テオが本当に“線”を越える。