野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)
ふたりの男君(おとこぎみ)からのお手紙をつぎつぎに読むのも嫌で、浮舟(うきふね)(きみ)(みや)様からのお手紙を見たまま横になっている。
侍従(じじゅう)右近(うこん)は顔を見合わせて、
「やはり宮様にお心が移ったようね」
と目で会話する。

侍従が小声で言う。
「それはそうよ。私だって(かおる)(きみ)を最高のお美しさだと思っていたけれど、宮様はそれ以上でしたもの。向こう岸の別荘にお(とも)したときなんて、気取らずに楽しんでいらっしゃるご様子がすばらしかったのですよ。あれほどのご愛情をいただいたら、私なら迷いません。(はは)中宮(ちゅうぐう)様のところにご奉公(ほうこう)に上がって、宮様がお越しになるたびにお姿を拝見するわ」

男好きの侍従に比べて、右近は落ち着いている。
「それは軽率(けいそつ)でしょう。薫の君より(すぐ)れた方なんていらっしゃいませんよ。見た目がどうこうではなく、お人柄(ひとがら)の話です。どう考えても今の状況はいけないわ。姫様はどうお決めになるのかしら」
秘密を知る女房(にょうぼう)が二人になったことで、右近だけだったころよりも(うそ)がつきやすい。
今のところ他の女房たちには気づかれていないみたい。
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