きみが春なら

Side.I

「ここは?」
「俺の隠れ家。今は仮眠に使ってる。他の奴は誰も知らない」

街外れにぽつんと建つプレハブ小屋の前。繋いでいた手を離し、扉に鍵を差し込んだ。
彼女を中に迎え入れ、再び鍵をかける。窓から入る月明かりにその姿が浮かび上がる。

「良かっ、た……」

逸る気持ちのまま。脱げかけたジャケットごと抱きしめた。
所在なさげな両腕から戸惑いが伝わるが、力を緩められない。

「君が死ぬかもしれないと思ったら……気が狂いそうだった」

小さな手が俺のシャツを握る。

「……無茶しすぎなのは、あなただって同じよ」
「だな。もう二度と出来ないよ」

彼女の顎を指で掬いあげ、
そのまま口付けた。


「── 好きだ。ハル」


そっと唇を離し、瞳を覗き込む。
伝えたかったのはそれだけだった。
欲しかったのは君だけだった。

「本当に、おかしくなりそうなくらい……好きだ」

出会った時から、ずっと。
ずっと惹かれてた。
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