意地悪な副社長に狂うほど愛される
扉が閉まった瞬間、私はトイレに駆け込んだ。
ちょうど始業のチャイムが鳴った時だった。
私が副社長に片思いしたのは7年前のことだった。
高校2年生の秋。
企業PRイベントとして、毎年いくつかの会社が学校に来る。
その年やってきた御堂ツーリストの一行の中に、のちの副社長ががいた。
「御堂ツーリストから来ました。御堂駿です」
その日は企業PRの為、数名の社員が来ていた。
創業者の出身校ということもあり毎年行われるイベントで、毎年期待されてなかった。
しかし、この年だけは違った。
少なくとも女子生徒にとっては最高のイベントになった。
それは副社長がいたからである。
当時はまだ副社長ではなく新入社員の1人だった。
恐ろしいほど美しい顔に、背が高く、ほどよく筋肉質な胸板がジャケットを着ていてもわかった彼を見た瞬間、クラスの女子たちは全員骨抜きにされていた。
高校生から見ても魅力的な妖艶さがあり、彼の周りだけ色が違うような気がした。
彼の近くに寄る機会があったクラスメイトは「いい香りがした」と興奮気味に教えてくれた。
会社のPR内容はほとんど、みんなの頭に入っていなかっただろう。
そんな中でも私は大学には行けないことは決まっていたので就活の為に真剣に話を聞いた。
旅行にいったことがない私にとっては旅行は夢のようで聞いていて楽しかった。
今でこそ、様々な業種を束ねている巨大企業、御堂グループとなっているが、創業当時は小さな旅行会社から始まったのだ。
質問タイムに入ると男子生徒が余計な質問をした。
「御堂さんって御堂グループの社長とかの親戚ですか?」
何人かは気になっていたのだろう。
男子生徒に注意する子もいたが、興味の視線は糧に向かっていた。
「ああ、社長は父。会長は祖父だ」
「おお」と教室がざわめく。
「じゃあ御曹司なんですね、次期社長ですか?」
女子生徒の誰かが続いて質問した。
「俺は次男だから次期社長は兄です」
嫌な顔1つせず、御堂は高校生の質問に淡々と答えていた。
私と真逆にいる人、それが彼の印象だった。
PRイベントが終わって片づけ担当だった私はプロジェクターをケースに閉まっていた。
「それ、持って行くの? 重いから俺が持つよ」
声をかけてきたのは副社長だった。
「大丈夫です。私、力持ちなんで」
そう言うと副社長はクスっと笑ってケースをひょいっと思った。
「一緒に行こう」
私は残りのコードなどが入っている軽い方の小さなケースを持った。
廊下を並んで歩くだけでドキドキした。
「あの!」
何も話さないのは失礼かと思い声をかけてみた。
「何?」
こちらを見た彼の顔が綺麗すぎて緊張がさらに心臓にからむ。
「私、御堂ツーリストさんのユーチューブ限定広告好きです」
「え?」
「すみません。あのCM見て旅行したいって思いました」
「……ありがとう」
「あなたが一緒に旅行したい人は誰ですか?っていいですよね」
そう言って笑うと副社長は立ち止まり真剣な表情でこちらを見つめた。
その目に高校生の私はドキッとした。
高校生の男子たちにはない、大人な視線だった。
「本当にそう思う?」
「え?」
「あの広告、そんなにいい?」
「はい! 語りかけられてて、すっごくいいです」
すると副社長はぱっと笑顔になった。
その瞬間、私は恋に落ちた。
今度は子供っぽい目だった。
私は優越感に浸った。
先程まで教室で向けていた笑顔ではない表情を見た気がして心臓が壊れるんじゃないかってほど、ドキドキしていた。
それから私は高校卒業後、御堂ツーリストにアルバイトスタッフとして雇ってもらった。
22歳の時に念願の社員登用テストに合格して正社員となった。
それでも副社長と一緒に働くことは出来なかった。
私は地方に配属され、副社長は東京のグループ本社で幹部となっていた。
御堂ツーリストから退いていたのである。
「そりゃあ、ご子息様だからねぇ。すぐに本社で経営学を叩きこまれるでしょう。1年目は経験で一般社員と同じ扱いだっただけ」
先輩にそう教えてもらった時はがっかりした。
副社長はもう旅行会社の分野には携わっていなかった。
それでもこの御堂ツーリストが急成長したのは副社長の力であることは誰もが知っていた。
だから私はここで頑張ろうと一生懸命に働いたのだ。
それが3年経ち、なぜか今年に入って本社のまったく畑違いの総務部へ異動となったのだ。
ちょうど始業のチャイムが鳴った時だった。
私が副社長に片思いしたのは7年前のことだった。
高校2年生の秋。
企業PRイベントとして、毎年いくつかの会社が学校に来る。
その年やってきた御堂ツーリストの一行の中に、のちの副社長ががいた。
「御堂ツーリストから来ました。御堂駿です」
その日は企業PRの為、数名の社員が来ていた。
創業者の出身校ということもあり毎年行われるイベントで、毎年期待されてなかった。
しかし、この年だけは違った。
少なくとも女子生徒にとっては最高のイベントになった。
それは副社長がいたからである。
当時はまだ副社長ではなく新入社員の1人だった。
恐ろしいほど美しい顔に、背が高く、ほどよく筋肉質な胸板がジャケットを着ていてもわかった彼を見た瞬間、クラスの女子たちは全員骨抜きにされていた。
高校生から見ても魅力的な妖艶さがあり、彼の周りだけ色が違うような気がした。
彼の近くに寄る機会があったクラスメイトは「いい香りがした」と興奮気味に教えてくれた。
会社のPR内容はほとんど、みんなの頭に入っていなかっただろう。
そんな中でも私は大学には行けないことは決まっていたので就活の為に真剣に話を聞いた。
旅行にいったことがない私にとっては旅行は夢のようで聞いていて楽しかった。
今でこそ、様々な業種を束ねている巨大企業、御堂グループとなっているが、創業当時は小さな旅行会社から始まったのだ。
質問タイムに入ると男子生徒が余計な質問をした。
「御堂さんって御堂グループの社長とかの親戚ですか?」
何人かは気になっていたのだろう。
男子生徒に注意する子もいたが、興味の視線は糧に向かっていた。
「ああ、社長は父。会長は祖父だ」
「おお」と教室がざわめく。
「じゃあ御曹司なんですね、次期社長ですか?」
女子生徒の誰かが続いて質問した。
「俺は次男だから次期社長は兄です」
嫌な顔1つせず、御堂は高校生の質問に淡々と答えていた。
私と真逆にいる人、それが彼の印象だった。
PRイベントが終わって片づけ担当だった私はプロジェクターをケースに閉まっていた。
「それ、持って行くの? 重いから俺が持つよ」
声をかけてきたのは副社長だった。
「大丈夫です。私、力持ちなんで」
そう言うと副社長はクスっと笑ってケースをひょいっと思った。
「一緒に行こう」
私は残りのコードなどが入っている軽い方の小さなケースを持った。
廊下を並んで歩くだけでドキドキした。
「あの!」
何も話さないのは失礼かと思い声をかけてみた。
「何?」
こちらを見た彼の顔が綺麗すぎて緊張がさらに心臓にからむ。
「私、御堂ツーリストさんのユーチューブ限定広告好きです」
「え?」
「すみません。あのCM見て旅行したいって思いました」
「……ありがとう」
「あなたが一緒に旅行したい人は誰ですか?っていいですよね」
そう言って笑うと副社長は立ち止まり真剣な表情でこちらを見つめた。
その目に高校生の私はドキッとした。
高校生の男子たちにはない、大人な視線だった。
「本当にそう思う?」
「え?」
「あの広告、そんなにいい?」
「はい! 語りかけられてて、すっごくいいです」
すると副社長はぱっと笑顔になった。
その瞬間、私は恋に落ちた。
今度は子供っぽい目だった。
私は優越感に浸った。
先程まで教室で向けていた笑顔ではない表情を見た気がして心臓が壊れるんじゃないかってほど、ドキドキしていた。
それから私は高校卒業後、御堂ツーリストにアルバイトスタッフとして雇ってもらった。
22歳の時に念願の社員登用テストに合格して正社員となった。
それでも副社長と一緒に働くことは出来なかった。
私は地方に配属され、副社長は東京のグループ本社で幹部となっていた。
御堂ツーリストから退いていたのである。
「そりゃあ、ご子息様だからねぇ。すぐに本社で経営学を叩きこまれるでしょう。1年目は経験で一般社員と同じ扱いだっただけ」
先輩にそう教えてもらった時はがっかりした。
副社長はもう旅行会社の分野には携わっていなかった。
それでもこの御堂ツーリストが急成長したのは副社長の力であることは誰もが知っていた。
だから私はここで頑張ろうと一生懸命に働いたのだ。
それが3年経ち、なぜか今年に入って本社のまったく畑違いの総務部へ異動となったのだ。