第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「それで……ガイルのことも利用してたの?」
声が震え、怒りと恐怖が喉の奥で絡みつく。
ディランの姿をした“それ”は、まるで退屈な雑談でもされたかのように、気だるげに肩をすくめた。
「ああ。実験材料にはなったな」
あまりにも軽い口調だった。
胸の奥がきゅっと痛む。
「ガイルは……貴方の息子でしょ。
それを……駒みたいに扱って……」
「“あれ”は出来損ないだ」
その瞬間、空気がひやりと凍りついた。
ジョルジュ陛下の声には、親としての情など一片もない。
ただ、失敗作を切り捨てる研究者の冷たさだけがあった。
そして、ゆっくりと続ける。
「そうそう。私のもう一人の息子は、なかなかの逸材だったよ。
だが……瞳の色がダメだった」
心臓が跳ねる。
――ディランの父親。
その答えが、喉の奥で重く沈んだ。
「……気づかれたんだよ。
自分の息子が“利用される”ことをね」
ディランの身体が、愉悦を含んだように微かに笑う。
その笑みは、皮膚の下で別の何かが動いているような、不自然な歪みを帯びていた。
「だから、事故に見せかけて殺したんだ」
視界が揺れた。
膝が崩れそうになるのを、必死にこらえる。
「……最低。」
声が震え、涙が滲む。
目の前の存在は、ただの暴君ではない。
自分の子どもを“素材”として扱い、
そして今――孫であるディランの身体まで奪っている。
こいつは……自分の子どもにまで手をかけた。
それだけじゃない。
今まさに、孫のディランまで――。
「よくもそんなことを…!」
言葉が途切れた。
胸の奥が張り裂けそうだった。
ディランの身体を使った“怪物”は、
その反応を味わうように、ゆっくりと私へ歩み寄る。
「私の血筋は、すべて“王”を完成させるための素材だ。
息子も、孫も――そして君も」
その声は甘く、底なしの闇を孕んでいた。
耳の奥にまとわりつき、逃げ場を奪う。