第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「はい、できたわよ!」

肩にポン、とルイの手が置かれる。
鏡に映る髪は、綺麗に切り揃えられていた。

「ありがとう」

そう言った瞬間、ルイがふわりと後ろから私を抱きしめてきた。

「ルイ?」

「ほんとに……無事でよかったわ」

「うん」

「心配したのよ」

「うん」

「来るの、遅くなっちゃってごめんね」

抱きしめる腕にぎゅっと力がこもる。

「大丈夫だよ。来てくれてありがとう」

そう言った瞬間、その声色がわずかに沈んだ。

「……女の子の髪を切るなんて、最低よ。あのジジイ」

優しさの奥に、押し殺した怒りが混じっている。
私の髪にそっと触れながら、悔しさを噛みしめるような声音だった。

「ふふ」

「でも、よく似合ってる」

「ありがとう」

コンコン、とノックが一瞬きこえ
すぐにガチャッと扉が開く。

「お嬢さーん!! ……って、あ!! ルイ、なにやってるの!?」

勢いよくレオが飛び込んできた。

「ちょっとレオちゃん、返事聞いてから入りなさいよ!!」

「わ! ごめーん! お嬢さん!!」

「入り口で騒がないでよ」

「ちょ、テオ押さないで!」

「――あ、お嬢様!! おはよう……って、ルイ、マジでなにやってるの!? 離れて?」

抱きしめられたままの私を見て、テオがドスの効いた声を出す。

「もう、お邪魔がいっぱい来たわね」

ルイはやれやれと肩をすくめ、私から離れた。

「お嬢様、身体大丈夫?? よく眠れた?? あいつに変なことされてないよね!!?」

テオがぐいぐい距離を詰めてくる。

「大丈夫だよ」

苦笑いしながら答えた。
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